パチンコ屋 カードローン

パチンコ屋 カードローン

 リリアの服装も特に上着を脱いだだけで、違和感はない

 何に驚いたのか尋ねようとした時、「こ、股間……」「は?」「――股間にパパの物が生えてるっ!?」 今までは緊張し過ぎていて、股間の違和感すら忘れていたのだろう

あなたも好きかも:昔 の スロット アプリ
 ズボンにも汚れがあったことから、下も脱ごうとした時に気付いたらしい

「まあ……男だからね」 これで中身も女の子だと判明したが、もう少し配慮すべきだったと隆成は反省した

とはいえ、静希が言っていたようにやりようはある予知系統には大まかにではあるが特性がいくつかあるのだ、具体的に言えば『どのような未来が見えるか』である例えば現在から十秒後という時間的な未来だったり、自分が怪我をすると言った状況的な未来だったりと見えるものは能力によって異なるだがそのすべてに共通するのは、状況が変わることによって見える未来の内容も変わってしまうという事である過去はすでに起きていることであるため変えようはない、現在は今この時の行動、そして未来は今この現在の行動によって常に変わり続けているのだ未来など見えない静希からすれば意識しようもないが、それを認識できる人間にとって行動とは常に未来を変えるという事に他ならない先程の行動であげるのであれば、カロラインは静希が銃を撃つという未来、あるいは静希に銃で撃たれるという未来を予知したという事になる、だからこそ避けられたバイクからいち早く脱出できたのも、バイクが射撃されるという未来を予知できたからに他ならないだろう、逆に言えばその未来を予知し、行動をしたことによって未来が変わったという事になる撃たれるという未来から、避けたという未来、つまりすでに彼女が見た未来と現在は別物になってしまっているという事である予知能力の欠点はそこにある確定した未来はごくわずかだ、あらゆる要素が重なってようやく出来上がる未来、それを覆すことは難しいが、確定していない未来は覆すのは容易、その場合何度も何度も予知の能力を使わなくてはいけない一度に見ることができる景色に限りがあるように、一度に確認できる未来にも限りはある、静希がやろうとしているのはその処理能力の限界を超えた連続攻撃である幸いにしてこの辺りは市街地、身を隠す場所も罠を仕掛ける場所もたくさんある静希の攻撃に対してどのレベルまで対応でき、またどれほどの未来を確認できているのかを判断するには絶好の機会である召喚が確認されたとき、そこが勝負の始まりになる静希は明利のナビを聞きながら確実にカロラインを追い詰めるためにトランプの配置を始めていた『シズキ、もしあっちに悪魔が出て暴れだした場合、どうするの?』『・・・その場合この場を軍に任せる、徹底包囲までは俺が足止めしてそれが終わり次第救援に向かう形だ・・・そのくらいの時間は持つだろ、それで悪魔が出たほうにエドと軍の配置を入れ替える』静希達は今戦力を三分割している、静希、鏡花たち、エド、この三分割だが鏡花たちは悪魔に対して有効的な手段は有していない、どうしても自分が行く必要があるのだカロラインの確保が静希の目的でもあるが、その代償として鏡花たちが死んでしまったら元も子もないのだエドがいればどちらに悪魔が宿っているかわかった時には足止めくらいはできる、その展開に少し時間がかかってしまうかもしれないが召喚が終わればこちらに人員を割くこともできる、時間が経てばたつほどこちらが有利になるのは明白であるもちろん相手がそんな悠長な手を使ってくるはずがないことは静希も理解していた静希がトラップの配置をしながらカロラインを追う中、研究所内にいる鏡花たちの緊張は高まりつつあったもうすぐ十時、すでに召喚陣は完成したのか、煌々と光を放ち屋内を照らしていた「そう言えば実際に召喚を見るのはこれが初めてね・・・」「そうだな、奇妙なもんだな、何でこんなところにいるんだか」今まで人外達とは多く触れあってきたというのに、その始まりともいうべき召喚には関わってこなかったというのは鏡花たちにとって幸運だったのだろうかこうして今その場に立ち会っているという事を考えると、経験しておいて損はなかったかもしれないが、今となっては後の祭りであるそんな中研究者たちが召喚陣に近づいていき、いよいよ召喚が始まろうとしていた「どうする?明利をこっちに集中させるか?」「やめておきましょ、あっちはあっちで佳境なんだから、明利の分は私達でフォローするわよ」もうすぐ召喚が始まろうとしている今このときにも明利は静希のナビをやめようとしなかった現在進行形で移動するカロラインを追うには、同じように今この状態で相手を把握しそれをナビする存在が必要なのだ明利はそれをわかっている、たとえ自分が危険になろうと今この場では索敵し正確に情報を伝達するのが自分の仕事なのだと理解しているそして明利の索敵を近くの通信兵が常に範囲内の部隊に伝達している、その為通訳は大忙しだ、近くにいる鏡花や陽太の会話が気にならないほどにそもそも明利の入手できる情報全てを伝達するには口が一つでは足りない、後三つほど必要なのではないかと思えるほどに多いのだ、切羽詰るのも無理ないだろう「どうする?もう能力使っておくか?」「・・・やめたほうがいいわね、好戦的な印象を与えるよりは交渉の余地があると思わせた方がまだましよ・・・もし攻撃するようなそぶりを見せた時は、あんたに前に出てもらうから・・・任せたわよ」「・・・アイマム、任せておけって」不安そうな鏡花を励まそうとしたのか、陽太は笑みを浮かべながら自分の胸を叩いて見せる、陽太なら大丈夫、そう思える何かがこの笑みにはあったそして集中を高めているとついに召喚陣がその役割を遂げようとしている部屋一帯が光で満ちていき、僅かな稲光にも似た閃光が明滅し始める十時ちょうど、召喚は時間通り行われた新たな予定が生まれない限り予約投稿は今日までにしておこうと思います長かった・・・本当に長かった・・・反応が遅れているとは思いますが本当に申し訳ありませんでしたこれからもお楽しみいただければ幸いです

激しい閃光が放たれ、その光に目が慣れるのに数秒を要しその中で鏡花と陽太はその光の中心にいる影を捉えていた仮面をつけていて僅かな遮光効果があったのが幸いしたか、この場にいた誰よりも早くその姿を確認することができた初めに見えたシルエットは翼だ、大きく羽ばたくように広がった両翼、鏡花も陽太もその姿を確認すると僅かに警戒を強めた光が収まると、周りにいた研究者や軍人たちはようやくその全容を把握することができたそれは、まるで、いや形は鳥そのものだった唯一違うとすればその体を覆う羽毛はすべて刃でできていたという事だけ、剣のような鋭さと輝きを放つその羽一枚一枚が、鋭利な刃物であることがうかがえる鋭い刃物であるように見えるのに、それらはすべて柔らかく、羽ばたきの動きを阻害することも、音を立てるようなこともなかった「いきなり呼ばれたと思えば・・・妙な場所に出されたものだな・・・」その声は男性のものだった、だがそれほど低さはない、どちらかというのなら高い声だった、少年とまではいかないが、声変わりを始めた青年のそれに近い鳥の姿をした悪魔はきょろきょろと周囲を見渡しながら今の状況を把握しようと努めている鳥の姿であるというのにその存在感は圧倒的だった、悪魔に慣れている鏡花たちはそれほどの圧力は感じなかったが、悪魔慣れしていない人間にとっては相当な重圧を感じているだろう「私を呼び出したのは誰だ、名を名乗れ」その声音から、あまり機嫌が良いとは言えないことを感じ取った鏡花と陽太は明利を自らの背に置くようにしながら前へ出て行く何故なら周りにいる誰もが今の状態に圧倒され口をきけずにいるからだ、もしこのまま彼の問いを無視しようものならどうなる事かわかったものではないこの圧力から察するに以前のメフィの時のようなちょっとむかついてるレベルではない、相当頭にきている様子だった「召喚者ではありませんが、今の状況を説明しようと思います、よろしいでしょうか?」鏡花が前に出てしゃべりだしたことで、周りの人間はようやく自分たちの置かれている状況を把握したのか鏡花の一挙一動を見守る構えをとっていた通訳は常に鏡花の言葉を翻訳しその場にいたモーリスへと伝えている、もし鏡花が不穏な発言をした場合はどうなるか、その場にいる鏡花も陽太も理解していた「・・・あぁ、頼もう、君の名は?」「清水鏡花、こっちのは私の仲間の響陽太です、私達は召喚実験の護衛としてこの場にいます」簡潔に自分たちの名とその状況を告げたことで悪魔はとりあえず自分に敵意はないことを把握したのか周囲に気を配りながら鏡花と陽太に視線を向ける「状況を説明する前に、貴方の名を聞かせていただけますか?」「・・・失礼、私はカイム、見ての通りしがない悪魔だ」翼をはばたかせながらカイムと名乗った悪魔はゆっくりと近くにあった机の上に乗り、鏡花と陽太の近くへ身を置いた陽太は常に鏡花とカイムの間に体を置き、鏡花は何時でも能力を発動できるように集中状態を維持していた「では今の状況を説明させていただきます・・・といっても私たちが知る程度のことでしかありませんが」そう前置きをしてから鏡花は今の状況を説明し始める、各国が合同で召喚実験を行おうとしていること、それに際し自分たちが護衛に来たこと、召喚を狙って何者かが襲いに来ていること、それを防ぐために外で自分たちの仲間が戦っていること自分が知り得る限りの情報を話すことで、カイムは大まかにではあるが状況を把握したのか何度か頷いた後で周囲に視線を向ける「なるほど、周りにいるのは実験を行っていた者たちという事か・・・状況は理解した、どうやら明確な召喚者がいるような場所ではないようだな」何人もが合同で召喚を行ったために『誰が』召喚を行ったという事は明確にはできない、それを理解したのかカイムは小さくため息をつく「まったく、こんなことで呼び出される身にもなってほしいものだ・・・ところで」カイムが言葉を切って全員を見渡した瞬間、全員が感じる圧力が一気に強くなる、威圧だけではない、僅かな殺気の混じる視線と存在感に鏡花たちを除くその場の全員が気圧されてしまっていた「呼び出しておいてそのまま帰れとは言わないだろうね、こちらの都合も考えずに呼んだのだ、何かしらの代価があるのだろう?」その言葉に鏡花はモーリスの方に視線を向けるが、彼は圧倒されてしまっていて使い物になる状態ではなさそうだった、研究者の代表のハインリヒも同じ様子、ここは自分の機転で切り抜けるしかないのかと鏡花は歯噛みする悪魔は何にしろ代価を求める存在だ、勝手に呼び出されて帰れなどといわれれば誰だって腹が立つ、カイムが殺気を含めているのも当然だ飄々とした性格のメフィと違って、どうやらこの悪魔はずいぶん礼を重んじる様だった、一度メフィと敵対したときはこれほどの圧力は感じなかった、あの時メフィはそこまで本気ではなかったと言っていたが、どうやらあながちウソでもなさそうだそして今自分がこうして前に出られるのは、以前より少しは成長したという事なのだろうか「どうやらこの連中は、悪魔がどのようなものであるかも知らずに召喚を行ったようです、恐らく見返りの類は用意していないかと・・・」「・・・そうか・・・ところで、その口ぶりだと君は悪魔がどのようなものであるかを知っているようだね?」「・・・えぇ、先程言った外で戦っている私たちの仲間は、悪魔の契約者ですから」鏡花の言葉にふぅんと呟いたカイムは外の方に意識を向け始める、恐らく気配を探っているのだろう、数瞬目を瞑るとゆっくりとその瞳を開いて頷いて見せる「なるほど、確かに同族の感覚がするね・・・道理で君たちはこの状況でも私と相対していられるわけだ」「お褒めに預かり光栄です、ですが貴方の望むような対価は用意できるかどうか・・・この場にいるもののできる限りのことはするつもりですが・・・」鏡花が周囲を見渡すと、ようやく何人かの人間は平静を取り戻し始めている様だったが、この状況にどうすればいいのか迷ってしまっている中にはゆっくりとその場から離れようとしている者もいる、やはり自分たちで何とかするしかないようだいきなり呼び出されて何の用もなく帰れなんて言われれば腹が立つのも当然、足を運ばせたぶんくらいの対価を払うのもまた当然という風に思える、静希やメフィにそのあたりのことを聞いておくべきだったと鏡花は後悔していた仮に聞いたとしても『人それぞれだから何とも言えないわねぇ』なんてことを言うメフィの姿が目に浮かぶ、こんな状況になって何も考えていない軍や研究者も大概だが、悪魔に関わって長い自分たちがこの程度のことも思いつかなかったのは痛手である「君たちは今回の事には関わっておらず、どちらかといえば巻き込まれた立場みたいだね、ならば君たちから何か奪うという事はしない、それは筋違いだからね」「ありがとうございます・・・ですがこの場の者に危害を与えるという事になると、私達としてはそれを防がなければいけない立場にあります、その点を考慮していただけるとありがたいです」相手は圧倒的な強者、下手に出るしかないが、少なくとも静希がこの場に助けに入るまでの時間くらいは何としても稼ぐつもりだったどうにかしてこの場の研究者たちを安全に退避させた上で交渉できればなおよかったのだが、そうそううまくはいかないものである「君たちはなかなか苦労してきたようだね、この状況でも誰かを守ろうとする余裕があるなんて」「そうですね・・・まぁ、それなりに」先の言葉と鏡花の表情から彼女が何をしようとしているのか、何を考えているのかを把握したのか、カイムはクスクスと笑って見せる鳥類の表情はさすがに読み取れなかったが、その声音が少しだけ柔らかくなっているのを鏡花は感じていた「・・・良い目をしている、何があってもこの場は凌ぐという覚悟がある目だ」「・・・褒められていると思っていいのでしょうか」「もちろん、そう言う目ができる人間は稀だ、なかなかに興味深い」鏡花の視線から、彼女がどんな手を使ってでもこの場をしのいで見せるという覚悟を感じ取ったのか、カイムは再び笑う、その笑みは面白いものを見つけた子供のそれを彷彿とさせたその視線は鏡花だけではなく、その前に立ちふさがる陽太にも注がれている敵意こそ向けられていないものの、こちらが動けばすぐに対応できるように警戒しているのが一目でわかる、そして何があっても鏡花を守るという態度がその全身から見て取れた「そうだな・・・では呼び出した対価をいただこう・・・君たちに協力をお願いしたいが、構わないかな?」「・・・私たちにできる事であれば」カイムの言葉、一言一句を聞きのがさないようにしながら、飛び立とうとするその姿を注視する、何をしてきても反応できるように、何を言ってきても思考をとぎらせないように「この周りにある機材、恐らく召喚した時の状況を記録しているものもあるだろう、それらをすべて破壊してもらいたい、記録に残るのはいやなんだ」カイムの言葉に一番大きく反応したのはこの実験を行っていた研究者たちだった、時間をかけて行った実験の結果をすべて破棄しろと言われているようなものだ「ま、待ってくれ!この実験を行うのにどれだけ時間をかけたと」「それだけでよいのですか?その程度でよければこちらとしてはありがたいのですが」ハインリヒの言葉を遮って鏡花が聞き返すと、カイムは満足そうにうなずいて見せる通訳の人を呼んでこれからいう事を伝えるべく、鏡花は視線を鋭くする「ミスター、今の状況をわかりやすく説明させていただきます、この悪魔は私達に機材全ての破壊を求めました、それが彼を召喚した対価です、それが破られた場合命の保証はありません、破壊するか、死ぬか、どちらかの選択肢です」通訳の言葉を受けてハインリヒは歯噛みしながら近くにいるモーリスを呼んだ、どうにかしろと言っていることだけは通訳を通じて鏡花も理解することができたが、状況を理解していない人間ばかりだと嫌気がさしてくる今自分たちは、カイムに殺されるか、見逃してもらうかというどちらかの選択肢しかないのだ時間をかければもしかしたら静希が問題を解決してここにやってくるかもしれないが、その可能性は低いだろう、あっちも悪魔を相手にしているのだ、希望的観測は捨てるべきだ「もう一度言います、死にますか?機材を破壊しますか?もちろん私たちとしても最善を尽くします、あなたたちをここから逃がす程度のことはして見せますが、どちらにせよ機材は破壊されるでしょう、賢明な判断をお願いします」召喚が無事行われた時点で、鏡花たちはすでに目的の半分以上をこなしている、彼らの身を守るのはいわばアフターサービスのようなものださすがに死なせるわけにはいかない、召喚を行った結果死んでしまったのでは無事に終わったとは言えないというのもある、何より死なせたとあっては寝つきが悪くなるのは目に見えている悪魔は敵に回さない、今鏡花がやろうとしているのはそういう事だ、何事も穏便に話を進めるのが一番である「やはり状況を理解している人間が一人でもいると交渉が楽だな・・・彼らはどうするかな?」「・・・こちらとしては機材の破壊を提案しますが・・・彼らにとってもこの実験はかなり重要なものだったようです・・・とはいえ命と秤にかけた時どうなるかは彼ら次第でしょう」この場の責任者である両名からの許可がない限り、この場に護衛としている鏡花たちに行動することはできない、だが鏡花の勘が告げている、いや鏡花だけではなく、悪魔と対峙したことのある陽太も感じていたこいつを敵に回してはいけない今は紳士的な対応をしているが、こちらが交渉を破棄した時、確実にその力を存分に振ってくるだろう、そうなれば自分たちにできるのは戦闘などではなく、ただの逃走だけだ「ここから彼らを逃がす程度はできると言ったね、それは容易かな?」「いいえ、かなりギリギリです、そうなった場合外にいる私たちの仲間にも救援を要請しないと難しいでしょう、最悪私たちの誰かが瀕死の重傷を負う可能性もあります」鏡花はこの場でブラフなどを使う事なく、真摯に悪魔と対応していた、嘘は一つもついていないこちらが誠実な対応をしているという事が相手に伝われば、少しでも交渉できると感じたためだこの場にいる全員を逃がせる可能性はほんのわずかだ、多くの場合、逃がせたとしても半数といったところだろうだが陽太がカイムを押さえつけ、鏡花が能力で強制的にこの場から全員を押し出す形で外へ放り出す程度のことはできる相手の能力にもよるが、自分たちの被害を考えなくていいのであれば、不可能ではない「悪魔の力を恐れながら、なおかつ最善を尽くそうとしている・・・なるほど、君たちは良い能力者のようだ」「どうも・・・ですがまだまだ未熟な学生です、そこまで良い能力者といえるかどうかは怪しいところですね」そんな話をしながら責任者二人の話がまとまるのを待っている間も、鏡花も陽太も警戒を怠っていない、いつカイムが飽きて攻撃を始めてもいいように集中状態だけは切らさないように深呼吸を持続しているそんな様子を楽しそうに見つめている悪魔、どうやら鏡花と陽太に対する心象は悪くないようだが、これがどういう結果になるか二人は判断できずにいた「ミスシミズ、君たちの力でどうにかならないのか?この研究を破棄するのは我々としては望まない、ミスターイガラシを呼べばなんとか」モーリスの言葉を通訳から間接的に聞いたことで鏡花は額に手を当ててあきれ返ってしまっていた彼らとしても苦労して召喚実験を行っていたのは知っている、そのデータを守りたいという気持ちも十分理解できる、だがこの状況においてまだそんなことを言っているのかと鏡花はため息をつく「少佐、貴方たちの理屈は十分に理解しています、ですが我々はただの能力者、静希も言っていたと思いますが私たちにできるのはあくまで時間稼ぎです、何よりこの場に静希がやってきて戦闘を始めたら、この研究所は無くなりますよ?」研究所が無くなる、それは比喩でも何でもない、物理的に消滅する可能性があるという事だ、嘘は何一つ言っていない、なのにこの大人たちは未だに状況を理解していないのだ存在だけでは悪魔の力を自覚できないというのは仕方のないことだが、自分たちの呼び出した者が一体どれほどのものなのか理解していない、これ程恐ろしい状況はないだろう「悪魔と我々の力の差をわかりやすく教えましょう、水鉄砲を持った子供が我々人間、主力戦車に乗っているのが悪魔です、この差がわかりますか?水鉄砲をいくら用意したところで戦車には勝てないでしょう?」呆れがやがて苛立ちになってきたのか、鏡花はわずかに声をあげてモーリスに怒鳴る、現状を把握していない大人に少しでもこの状況を正しく伝えたいのに、実際に体験していない彼らはそれを理解できないいっそのことカイムに能力を使わせてその恐怖を教えたほうが良いのではないかとさえ思えてくる始末である「自殺したいというのであれば私は止めません、ですがこの場でデータを守って死ぬよりも、また実験を行い、今度はしっかりと対価を用意するか、対価を必要とせず応じてくれる悪魔を召喚するかすればいいだけでしょう」鏡花の言葉に少しではあるが二人の意見もぶれてきている様だった、もう少し押す必要がある、鏡花は眉間にしわを寄せながら舌打ちして見せる「静希のいう事は正しかったようです、悪魔相手に戦ったことがない人間に対悪魔の指揮ができるはずもなかった・・・ここで部下も研究者も無駄死にさせる様なら、貴方は無能な指揮官だ、そのことをよく理解したうえで返答してください、死ぬか、機材を破壊するか」静希の真似をするようで嫌だったが、もうこうなったら多少強引にでもモーリスの首を縦に振らせるしかない、この状況を正しく理解しているのは自分たちだけなのだ、自分たちがどうにかするしかないでなければ、最悪全滅だ自分たちの身を邪薙が守ってくれているとはいえ、邪薙が作る障壁は悪魔の攻撃に対して防げて数発という事だった、防いで回避するなんてことが何回も通じる相手とは思えない鏡花は今までの会話や態度から、この悪魔カイムがメフィと違い物事を理屈で解決できるタイプの存在であることを感じ取っていた、もしかしたらメフィにもできるかもしれないが、そんなことは今は後回しであるこの判断の如何によって、自分たちが窮地に立たされるか否かが決定するのだ「・・・わかった、機材を破壊しよう」「正気か少佐!これまでの苦労を!」その言葉を確認すると同時に、鏡花は陽太と視線を合わせたあと地面を足で叩く瞬間、カイムの出てきた召喚陣の周囲にあった機材を掴むように地面が変化し、一点に集めていく「英断感謝します・・・陽太、集中はできてるわね?」「オーライだ!」一カ所に集められた機材を確認した後、陽太はその体を炎で包んでいき、右腕に巨大な槍を作り出していく鏡花が足元に鉄柱を作り出すと、陽太は何も言わずにその鉄柱を手に取って槍で包み込んでいくかつて巨大な門を破壊した攻城兵器、その称号に偽りなしといったところか鏡花自身も自らの能力で圧力を加えていき、機材が悲鳴を上げていくが、そこにさらに追い打ちをかけようとしているのだ、近くにいる研究員はすでに離れているが、唯一ハインリヒだけが機材を破壊されるのを防ごうとその場に向かう、だがすぐにモーリスによって取り押さえられ、その場から強制的に退避させられていた「木端微塵にしなさい」「アイアイマム!」鏡花の命令に従い、陽太がまとめられている機材に自らの槍を叩き込んでいく強烈な衝撃と熱に晒され、機材は原形を亡くしていく「どうする鏡花?爆発させるか?」「その必要はないわ、熱で完全に破壊しなさい、周りへの被害がないようにね」鏡花の指示に陽太は了解と軽く答え槍へと炎を集めていく破壊された機材はさらに陽太の熱に晒されることでその形を維持できなくなったのか、赤く変色しながら融解していった「・・・ところで、こうしてしっかりと破壊してはいますが、貴方はこの後どうするつもりですか?」「ん・・・そうだな、せっかくこちらに来たのだ、少し世界を見て回るさ・・・なに人間社会に危害を加えないように注意はするよ」とりあえずこの場から離れてくれるのかと鏡花は安心してはいるが、問題を先送りにしているような気がしてならない自分たちが関わらなければそれでいいのだが、さすがに面倒をよそに押し付けているような気がするのだ「終わったぞ、もう原型ないな」陽太の言う通り、鏡花が固定を解除するとそこには金属の塊がそこにあった、周りに使われていたプラスチックやらビニールやらも燃えてしまったのだろう、あたりに異臭が漂っているが、鏡花は即座にそれらを構造変換で通常の空気へと変えていくもはや機械として正しい動作をすることは二度とないだろうただの歪な塊を見てハインリヒは大きく肩を落としていた陽太は右腕の炎を徐々に分散させながら槍を消していき、最終的に能力を解除して見せる、もはや槍の扱いに関しては完璧というにふさわしい状態である「確かに、対価は受け取った、この件に関しては私はもう何も言わないことにしよう」「感謝します、こちらとしてもありがたい限りです」悪魔が敵にならなかったという事が何よりも鏡花たちにとってはありがたかった、もしカイムが敵になっていたらと思うとぞっとする無駄な戦闘は省くことができただろうと鏡花は安堵するが、まだ状況は終了していない、悪魔の脅威をすべて払うことができて初めて終了というべきなのだ「それでは私はもう行くとしよう、この場にいては君たちに緊張を強いることになるからな」こちらの心境を察してか、カイムは羽ばたこうとするが、それをモーリスの声が止めて見せた「待ってくれ!我々と契約するつもりはないか!?相応の対価は支払う!」通訳を通してその言葉の意味を知った鏡花は僅かに眉をひそめた、こういう構想があることは予想していたが、まさかこの場で堂々と行うとは思っていなかった、もっとも悪魔自身が去ろうとしている状況では今この時しか交渉する場がないのも事実であるモーリスの言葉にカイムはわずかに機嫌を悪くしたのか、その瞳を鋭くし僅かに殺気を放ちながら口を開いて見せる「私が現れた時、声を出すこともできずにいた者たちと契約するほど私は安くはない、身の程を知れ人間、この場で私が契約してもいいと思えた者は三人しかいない・・・その中にお前たちは入っていないのだ」カイムがそう言いながら視線を移していく、鏡花に、陽太に、そして鏡花があえて紹介しなかった、先程からずっと静希に対してナビを続けている明利にこの場で唯一、悪魔の存在に対して対応でき、また悪魔の存在を意に介さなかった人間達カイムの言葉にモーリスは悔しそうに歯噛みしながら握り拳を作って見せる、そしてその様子を見てから再び羽ばたこうとする前に、カイムは鏡花に目を向ける「シミズキョーカ、ヒビキヨータ、君たちに会えたのは僥倖だった、またいずれ会える時が来ることを願うよ」その言葉に、それと一つ助言をしておこうと付け足してカイムは顔を上げどこかを見るような目を向けた後に再び鏡花たちを見る「君たちの仲間が戦っていると言っていたな、ならば早めに助けに行ってやった方がいいかもしれない、苦戦しているようだ」鏡花たちが目を見開くのを確認してからカイムはその羽をはばたかせ、天井などないかとでもいうかのようにすり抜けてその場から去って行った悪魔がいなくなったことで鏡花たちは緊張から解放されたが、最後にカイムが残した言葉が気がかりだった鏡花と陽太はすぐさま通信し続けている明利の元へと状況を確認しようと駆けだす「静希!聞こえる!?状況を報告して!」無線の向こう側にいる静希に声を飛ばすと、何度かのノイズの後に咳き込む声と一緒に静希の呼吸音が聞こえてくる『あー、そんなにでかい声出さなくても聞こえてるよ・・・そっちはうまくいったみたいだな、無事で何よりだ』「あんたの方は?必要ならフォローに行くけど」『・・・そうだな・・・ちょっと俺だけじゃ抑えられないかもしれない・・・正直予知系統を侮ってた・・・銃だけでここまでやるとはな』静希は悪態をつきながらため息をついて見せる鏡花の場所から数キロ離れた場所、市街地の一角で静希は眉間にしわを寄せながらため息をついていた彼の衣服にはわずかに血が滲んでいる、銃弾を数発掠めたのだが今この状態でため息をつきたいのは静希の負傷具合ではない静希の周りには、市街地のあちこちにはカロラインの放った銃弾が命中した部隊の人間であふれていた、それも全員足や肩などの戦闘行動が不可能になる程度の負傷ばかり、手を抜かれているのは明らかである予知によって相手の動きがわかるのであれば、どのタイミングでどの場所に撃てば当たるかがわかるのだ、いくら能力者といえど、銃弾が放たれてから反応できるのは感覚を強化できるタイプの強化系統くらいのものである彼女が行っているのは実にシンプル、逃げながらの各個撃破、市街地において視界の狭い状態は相手にもこちらにも不利だ、静希はそこを明利の索敵によってカバーしているがカロラインは予知によってそれをカバーしているただし、この辺りに展開している部隊はその限りではない、いくら明利の索敵を翻訳した後で伝えようとも微妙に誤差が生じてしまう、その誤差は銃弾を放ち、着弾するには余りあるほどのタイムラグとなっている特に一時的にではあるがモーリスが指揮できない状況に陥ったのが痛かった、指揮が乱れ現場の状況判断だけで動いたため、予知できる人間の行動力は軍のそれよりもはるかに上になってしまったのだ数で勝っていても、ゲリラ戦法による不意打ちを駆使されてはただの案山子同然である総力戦をする気などさらさらない、いわば強制的に一対一の状態に、しかもほぼ一方的な不意打ちの形に持ち込んでいる、予知系統の本領を発揮していると言っていいだろう「とりあえずこっちに来てくれればありがたいけど、明利のナビを聞きのがすなよ、最悪狙撃されるぞ」『そんなに精度良いの?わかったわ、気を付けてね』鏡花との通信を切った後で静希は再度集中を高めていく戦闘による集中状態が続いたおかげか、静希は近くにいるカロラインから確かな悪魔の気配を感じ取っていた彼女の中に悪魔はいる、その確信を静希は得ただがそうすると、彼女は悪魔の力を借りずに戦っているという事になる、銃だけでこの場をやり過ごすつもりだろうかすでに悪魔の召喚が終わった今、彼女にとってこの場で戦闘を続ける理由とは何かそれを把握するためにも、少々アクションをかけてみる必要がありそうだった『・・・メフィ、一度アタックをかけるぞ』『あら、ようやく重い腰上げる気になったのね?』今までトラップの設置と相手の行動の把握に努めていた静希は負傷はほとんどなく、準備は万端な状態を維持していた、なにせいつ研究所から悪魔がやってくるかわからない状態だったのだ、戦力の維持は最低限しておくべきだったのだそして鏡花たちが悪魔とうまく対応した今、この戦力はすべてカロラインにぶつけることができる『一斉攻撃をする中で一回だけお前に攻撃してほしいんだ』『私に?もう決着付けるつもりなわけ?』メフィの言葉に静希はいいやと否定する、相手の行動を知るため、そしてある程度行動を操作するために必要な行動をとるつもりだった『一発は殴られたと感じる程度の弱い一撃で構わない、俺が弾幕を張るからお前は避けられないポイントに攻撃してくれ』『むむむ・・・また難しいこと言ってくれるわね・・・まぁいいわ、最低威力で打ち抜けばいいわけね』頼むよといった後で静希は視線を鋭くする相手が何を考えているのか、何を目的としているのかはいまだ不明だ、だが戦場においてどのような行動をとるかはある程度予測できる今相手が行っているのは各個撃破、そして逃走する気配がないことを考えるとこの場所、あるいはこの周辺に目的があるとみていいだろう明利の報告によるとエドが潜伏している近くではカロラインの弟のフリッツが相変わらず部隊に足止めされているとのことだったこの場から逃げるつもりはない、そうなれば手はいくらでもあるその中でも一番手っ取り早く、なおかつ有効的な手を静希はするつもりだった「さて、どこまで見えてるか、確認しようか」避けられるものなら避けてみろ、そう笑いながら静希は自らの射撃でカロラインを目標ポイントまで追い詰めていった誤字報告十件分、累計pv14,000,000、ブックマーク登録件数2900突破で合計5回分投稿反応が遅れ本当に申し訳ありませんでした、まだちょっと忙しいですがとりあえず予約地獄からは抜けられたかと思いますこれからもお楽しみいただければ幸いです

カロラインは確実に静希の射撃を避けながら市街地の中を走っていた、体力の持つ限り、各個撃破していけば終わりはある、だというのに自分を追う仮面の男を振り切れずにいた銃を何発か撃ちこんでいるはずなのに効いた素振りを見せないところを見ると自己治癒ができる能力者であると判断していただからこそ市街地戦では敵ではないと感じていただが次の瞬間、彼女の表情が一変する静希はカロラインの上方に位置取り、その姿を完全に視界に収めることに成功したそして初撃は直上から静希自身が銃弾を放つ、カロラインはそれをすでに予測していたのか静希が銃を構え狙いをつける段階で回避行動をとり始めていたそして当然のように放たれた銃弾は地面にめり込み、お返しとばかりに静希に銃口を向けようとした瞬間、半ば無理矢理に体をひねる、次の瞬間すでにトランプから放たれていた静希の釘が先程までカロラインの体があった場所を通過していく無理矢理に回避したことでカロラインは倒れるような形で着地した、そして今度は事前に準備してあった銃弾が数発、複数の角度から彼女めがけ襲い掛かる、そしてその中に一発、メフィの放った光弾が含まれていた全てを避けるのは無理だと悟ったのか、カロラインは瞬時に光弾の方向へと強引にジャンプして、当たりながら地面を転がり、銃弾を避けることに成功した『ねぇ静希、今の行動何か意味あるの?』『あぁ、よくわかったよ、少なくとも相手がどれくらいの反応速度があるのかはわかった、それに相手が見えてるものも』静希があえてメフィに弱い威力の一撃を要求したのは、高威力の攻撃の中に一発だけ含まれた攻撃を選択し、それを利用して回避できるかというのを確かめたかったからだ銃弾と光弾、前者はほぼ見えず、後者は確実にとらえられる、なのに彼女は光弾に向かっていった、つまり光弾には自分にさしたるダメージを与えられるほどの威力はないと知ったうえでの行動だそして、回避による予知のしなおしの時間もおおよそ把握した今回静希が銃弾を一斉に放たなかったのにはわけがあるもし時間的にかなり遠くの未来が見えていた場合、この場所にそもそも近づくことがなかったかもしれないのだ、そこで初撃は静希が放ち、そこから連撃の形で徐々に追い込んでいった、こうすることで相手の連続予知の時間的猶予を測ったのだ『で、結局この後どうするの?』『まぁ一撃で決める必要はない、よけきれない攻撃を確実に入れて、少しずつ弱らせていけばいい、そうなりゃ悪魔に頼るだろ、そしたらお前の出番だ』『そう・・・楽しみにしてるわ』メフィの声から、本当に楽しみにしているであろうことが覗えた、思えば彼女が大手を振って外に出ることができるのは久しぶりだ、心が躍るのは無理ないかもしれないそして静希は少しずつ弱らせてという風に表現したが、正確に言えば弱らせていくことしかできそうにないのである相手の連続して行う予知の間隔が、予想よりずっと早かったのだ能力を連続使用する場合、タイムラグを要するものがある、その中で予知系統はそのタイムラグを必要とするタイプが多いのだその為予知をし直すのに時間的な差が生まれると思っていたのだが、静希の予想に反してその差は全くと言っていい程に存在しなかった、今もなお予知をし直し続けていると考えていいだろうそのあたりはさすがエルフというべきだろうかそうなると一気に弾丸を消費するような攻撃は予知によって回避される可能性が高い、その為に一発一発で少しずつ追い込み、避けられないような状況にしてから攻撃しよけきれない攻撃を含めるしかないのだ自分自身で攻撃が作れるのであれば、もっと楽に追い込めたかもしれないが、こういう時に攻撃手段が既存の物しかないというのは不便なものだ拘束して話を聞くという目的がある以上、殺すわけにもいかないため手榴弾などの殺傷能力の高い武器を使うわけにもいかない、どうしたものかと悩むところであるとはいえ、静希がやるべきことはすでに決まっていた徹底的に相手の行動の選択肢を削っていく、まずは肩を、次に手を、次に足を、そうやって少しずつ相手の行動力を削いでいき、最終的には動けなくするのが目的だったそうして悪魔の力を行使したら強制的に軍をこの辺り一帯から退去させて悪魔戦を行う女性に対して攻撃を行うなんて非人道的といわれるかもしれないが、そんなことを気にするほど静希は優しくない敵には容赦しない、それが静希の信条だ、たとえそれが女であろうと手を抜く理由にはなりえない何より相手はエルフだ、静希が全力を出しても勝てるかどうか怪しい相手、手を抜くなんて選択肢は最初から静希にはなかったそして何より相手はすでに静希の術中にはまっている、こうして静希の近くを移動しながら攻撃のチャンスをうかがっているのがいい証拠だ本当に静希の攻撃から逃れようとするなら、静希を倒すのではなく静希からとにかく離れるべきだったのだ今まで経験してきた全てを使って静希は相手を追い詰めていくつもりだった過去最高ともいえるかもしれない集中状態の中、静希は明利のナビに従ってカロラインを追い詰めていく仮面のせいで外から静希の顔を見ることはできないが、その表情はいつにも増して邪悪な笑みを浮かべていたカロラインが回避と同時に銃弾を射出するも、その弾丸は静希には当たりもしなかった、正確に言えば当たる直前に回避したのとはまた別の弾丸が飛んでくるために、回避行動を強いられ狙いを定めることができないのだそして静希の放った弾丸は着実にカロラインの体に傷をつけていた左腕に傷を負い、血を流しながらも移動するカロライン、片手での照準はさらに精度をおとし、すでに静希との戦闘は一方的なものとなっていた軽度ではあるが足からも血が流れている、こちらは静希と同じようなかすり傷ではあるものの着実にカロラインを衰弱させている『そろそろ仕上げだな・・・メフィ、もう一発頼む』『また?まぁいいけど、仕上げって何するの?』メフィの疑問に静希が答えると、悪魔は嬉しそうに微笑んで見せる断る理由は無し、むしろやってみたいとのことだった静希の指示通り能力を使うためにメフィが集中を始める中、静希は先程までと同じようにカロラインを追い詰めていく死角からの銃撃を繰り返し、回避行動をとらせながら体勢を崩し、多方向からの同時攻撃ポイントに追い込むのにも銃撃を使うことで予知を乱発させ思考の選択肢を削っていく、動き続けることで疲労を誘い、治療のひまも与えないそんな中、再びメフィの能力が放たれる多方向からの銃弾に混じって一発、放たれた光弾を見てカロラインは半ば反射的にその光弾の方へ体を向け再び強引に突破しようと試みるだがその光弾が着弾する寸前に持っていた銃を盾にして光弾を防ごうとしたカロラインの判断は正しい、だが圧倒的に遅い放たれた光弾は彼女の持っていた銃を易々と破壊し、その右腕に深々とめり込む骨の砕ける音がしながら彼女は吹き飛ばされ、その体を建物に叩き付けたメフィに使わせたのは先程と同じサイズの光弾、だがその威力は人間相手に向けるには少々高いものにさせておいた先程光弾をその体で受けて自分にダメージを与えるには不足している能力であると判断させ、予知をする前に体が動くように仕向けておいた、着弾する前に予知したために光弾の威力が先程とは変わっていることに気付き銃を盾にしたのだろうが、すでに手遅れだった状況が目まぐるしく変わる中予知し続けるのは相当の負担になっただろう、少しでも予知しなくてもいいだけの状況ができたならそれに縋るのは半ば当然何より一度自分の体で受けたという経験が彼女の判断を鈍らせたその結果、カロラインは武器を失い、右手もほとんど動かせない状態になっている「こちら静希、これより悪魔の戦闘を始める、近くにいる部隊は至急周囲から離れるように伝えてくれ」『了解、全部隊に伝達します』『静希、そろそろそっちにつくわ、周りを囲っておく?』鏡花の言葉に頼むとだけ言って静希はカロラインの前に立って見せた憎々しげにこちらを睨むカロライン、彼女に視線を向けながら静希はトランプの中からメフィを取り出して見せた「もう隠しっこなしにしよう、前戯は十分だろ?そろそろ本番といこうぜ」武器を失い、その上悪魔まで現れたことでカロラインは圧倒的に不利であることを悟ったのか、その体を動かして逃げようとする、そしてその体から即座にある存在が姿を現したそれが悪魔だと理解するのに時間はかからなかった突然現れたそれは、馬のようだった具体的に言うのなら、二本足で歩く馬というべきだろう、骨格から微妙に馬のそれとは違うが、その手と足、そして頭は紛う事なく馬のそれだ「・・・あんただったのね、オロバス」「・・・君がここにいるとはな、メフィストフェレス」どうやら顔見知りだったのか、互いに視線を交わしながら敵意を向ける中、オロバスと呼ばれた悪魔は静希の方へと視線を向けた「メフィストフェレスの契約者よ、ここは見逃してくれないか?彼女には・・・いや私達にはやるべきことがある」「やるべきことがあるから見逃せ?交渉が下手だな、そんなことを言われて見逃すはずがないだろう、そっちの都合はどうあれこっちはカロラインを捕まえるために動いていたんだ」その言葉にカロラインは眉をひそめた、オロバスも視線を鋭くするのに対しメフィは何時でも静希をかばえるように集中していたそして緊張が続く中でメフィが口を開く「シズキ、オロバスが相手となると、ちょっと状況が変わるわ、さっきまでの予想の中で食い違うことがあるの」「・・・言ってみてくれるか?」メフィの知っている知識の中で静希がしていた予想と違うことがあるのか、視線をカロラインとオロバスから外さずにそう聞くと、メフィは小さくため息をついて見せた「・・・さっきシズキはエルフの方の能力が予知だって予想してたわよね?でも違うわ、悪魔の能力の方が予知なのよ」「・・・なんだと?」先程まで静希はカロラインの能力が予知なのだと思っていた、だから避けられない攻撃があってもそこまで不思議ではなかった、だが悪魔の能力が予知だというのは予想していなかったつまり先程まで悪魔の力を使わずに戦っていたのではなく、悪魔の力を使い続けていたのだ、そして自らの力は使わずにいたという事になる順序が逆なのではないかと思えるが、静希は視線をカロラインに向けて彼女を観察し始めた能力を使わなかったのか、それとも使えなかったのか、その考察を始める前に静希はトランプの中から救急用具を取り出したこのままでは失血死される可能性もある、その為一応治療をすることにしたのだ「メフィ、オロバスを見張ってろ、俺はこいつの手当てをする」「あら随分紳士的なのね」「茶化すな、拘束して話を聞くのが目的だって言っておいただろ」あえて口に出すことでこれ以上攻撃する意思がないことを示した後で、静希はカロラインの体から出ている血の箇所を治療していくといってもできるのは消毒と止血程度だ、本格的な治療は静希ではできない、特に骨が折れている右腕に関しては専門的な治療を受ける必要があるだろう出血はそこまで激しくないが運動し続けていたせいか脈拍が高い、既に止まりかけている傷口もあるが一部は未だ脈々と血を流し続けているこのまま放置すれば間違いなく失血死するだろう「・・・お前の目的は何だ・・・何故私を捕まえようとする」「黙ってろ、手元が狂う」カロラインの質問を軽くはねのけ、静希は自らが与えた傷を治療していく消毒と止血という粗末なものではあるが、ないよりはましなのだろう、徐々にそこから溢れる血は少なくなっていっているのがわかったそして治療を終えると静希は携帯を片手にエドモンドに向けて連絡を付け始めるカロラインを撃破したという事と現在位置、そして可能なら弟を連れてここに来るようにそう言った内容のメールを送った後、静希は小さくため息を吐いた後でカロラインの方を見る「俺の仲間がお前の弟をここに連れてくる、抵抗しないように連絡だけしておけ」「・・・従うと思うか?」「従うさ、お前の治療をしている間俺は無防備だった、それなのに攻撃しなかったってことは話をする準備がお前にもあるってことだろう?」そう言いながら静希はカロラインの腰のあたりを一瞥する、そこには静希には見えないようにしながらも刃物の類があった、銃が破壊されたとはいえ武器の一つくらいは持っているだろうなという静希の読みだが、彼女にそのようなことがわかるはずもなかった全て看破されているのかと悔しそうな表情をするが、それでもまだ負けを認めていないようで静希に向けて敵意を放ち続けている「さて、ここらで腹を割ってお話ししようか、俺の名前は五十嵐静希、こっちは俺の契約している悪魔のメフィストフェレスだ、今回は表向き召喚の護衛、本命はお前の捕獲を目的に動いていた」紹介された途端、メフィは笑みを浮かべながら手を振って見せる、そんな愛想を振りまくほどの余裕がある状況ではないのは明らかだが、カロラインたちにとっては精神的攻撃につながったようだった「・・・何が目的だ・・・私を捕えて何をしようとしている」「話を聞きたいんだよ、いろいろとな、ついでにお前の目的も聞いておこうか、今回召喚実験に近づいた目的は何だ?何をしようとしていた?」静希の言葉にカロラインは一瞬視線を伏せる、そしてその後に自らの契約する悪魔であるオロバスの方に視線を向けた馬の顔をしたオロバスもその視線に気づいたのか、小さくうなずいて見せる、とりあえず今は話をするのが正解だと思ったのだろう、カロラインもその反応にある種諦めがついたのか、口を開く「私は、この召喚の裏に何者かがいるのではないかと思い、監視と調査に来た、何とかして召喚の現場に侵入しようとしたが・・・お前達に阻まれたことになるな」「・・・召喚の裏に・・・」カロラインの言葉に静希はなるほどと納得する彼女はかつての召喚事件のように裏に関わる人間がいるかどうか、あるいはその人物がいた場合その行動を阻もうとしていたのだろう何かしらの目的というのが明確化されてきた、それと同時に静希の脳裏にはいやな予感が浮かんでいた「・・・ところでカロライン、お前はリチャード・ロウってやつを知ってるか?仮面をつけた奴だ」静希の言葉を聞いた後、カロラインの表情が一変する先程までの悔しさが残るものから、明らかな怒りへと変貌していた「お前・・・奴を知ってるのか・・・?!」「質問してるのはこっちだ、その様子だと知っているみたいだけどな・・・どういう関係だった、全部吐け」静希の冷え切った言葉にカロラインは歯噛みしながら拳を握りしめている、この反応でもうおおよその予測はできていたが、確認のためにも彼女の口からきくのが一番だリチャードの味方か、敵かすでに答えは出ている、だからこそ明確にしておかなければならない「あいつは・・・私の家族を殺した張本人だ・・・!だから見つけ出して・・・必ず・・・!」その言葉を聞いて静希は肩を落としていた、考えた中で最も嫌な状況がここにきて発覚してしまったそれは陽太が予想したことが見事に的中した形になる当たってほしくない時に限って陽太の勘は当たってしまう、実月の弟という血の力が妙な形で発現したものだとため息が止まらないカロラインの言葉が正しければ、彼女はエドと同じく、召喚によって犯人に仕立て上げられた被害者だったという事である誤字報告が五件分溜まったのと土曜日なので三回分投稿この辺り話が進むとありがたい、この話は地味に長すぎましたこれからもお楽しみいただければ幸いです

「・・・はぁ・・・あのバカの予想がこんなところで当たるなんて・・・災難だ・・・」「・・・私の目的は答えた・・・次はお前の目的を明かせ、私を捕えて話を聞くだけが目的ではないだろう」悪魔の契約者を捕える、それだけ聞けばあらゆる面で利益や対応を思いつくだろう武力的でも、勢力的にも悪魔の契約者が一人いるだけでずいぶん変わる、それを表しているのがこの現状だ軍は相手にならず、静希とほぼ一対一の状態になってしまっているのだから「俺の目的は言ったとおり、お前を捕まえて話を聞くことだよ、もっと言えば俺はさっき言ったリチャード・ロウを追ってる、お前がその手がかりになればと思ったんだけどな」当てが外れたよと静希は肩を落として見せる、せっかく手がかりが得られるかと思ったのに自分やエドとそこまで境遇が変わらなかったことを知り落胆してしまっていた振出しに戻るとはこのことだ、何のためにフランスまでやってきたのかわからなくなってくる「・・・信じると思うのか?そんな言葉だけで」「信じる信じないは勝手にしろ、少なくとも俺がリチャードの仲間だったなら自分をかぎつけようとしてる奴がいたなら即始末する、そこの悪魔、未来が見えるんだろ?俺がこいつにこれ以上危害を加える未来は見えてるか?」静希はすでにカロラインに攻撃するつもりはない、少なくとも彼女から攻撃を加えない限りは自衛以外での攻撃はしないつもりだったそしてオロバスはメフィに視線を向けた後能力を使ったのか、小さく集中した後でゆっくりと首を振る「君が彼女に攻撃する未来は見えない・・・少なくとも危害を加えるつもりはないのは真実だ」静希の言葉は信じられなくても、自分が契約する悪魔の言葉は信じられるのか、カロラインは先程までむけていた強い疑いの視線を僅かにやわらげただがその視線には未だ疑念が残っている「・・・ならなぜおまえは奴を追っている・・・お前も悪魔の契約者のようだが・・・何が目的で」「・・・そうだな・・・どこから説明したもんか・・・」そう考えを巡らせていると足音と共にその場にさらに悪魔が増える現れたのはエドとカロラインの弟を乗せたヴァラファールだった悪魔がさらに現れたことでカロラインとオロバスは警戒の色を強めたが、静希とメフィは全く動揺していなかった「お疲れエド、首尾は上々みたいだな」「あぁ、最初暴れてたんだが急におとなしくなってね、頼まれた通り連れてきたよ」ヴァラファールからフリッツを下ろすと、彼は姉であるカロラインの元へと駆け寄るそして傍に立った状態で静止した、感動の再会にしては少々薄い印象を受けたが、今は後回しだ「それで、彼女が例の?」「あぁ・・・聞いたところによるとお前と同じ境遇らしいぞ」その言葉にエドは向けていた敵意をわずかにおさめる、自分と同じ境遇という言葉に少なからず思うところがあったのだろう「その言葉に確証は?」「ないな、言葉だけじゃ信用には値しない、判断するのはこれからだ」静希とエドがそう話す中、悪魔の契約者三人がその場に集合した今、カロラインは完全に劣勢となっていた単純換算でも二対一、もはやカロラインが勝つ目は万に一つもないのだ「お前たちは一体何なんだ・・・なぜ悪魔の契約者が協力し合っている」普通ならあり得ない光景だと思ったのか、声を震わせながらカロラインは二人を睨んでいるどう説明したものかと静希とエドは少し困った顔を浮かべ、視線を合わせた後で小さくため息をつく「カロライン、お前の家族が殺された召喚があったのは六月、間違いないな?」「・・・そうだ・・・それがどうした」急に話が変わったものの、彼女はすんなり答える、恐らくこの言葉には嘘はないだろうもっとも、先程言ったことをすべて信用するわけにはいかない、警戒は怠らずに静希はさらに言葉を続ける「俺が関わった召喚事件が起こったのは四月、こっちのエドが関わった召喚事件が行われたのは八月だ、そしてエドの事件の時はお前の時のように何人も死人が出てる」ここまで言えばわかるか?と静希はかぶっていた仮面を外し素顔を見せる信用させるために必要なのは手の内を明かすこと、顔も見せずにこちらの話を信じてもらうつもりはなかった静希の話を聞いて、思い当たることがあったのかカロラインは目を見開いて僅かに口を開閉して見せる「・・・まさか、お前達も奴に・・・?」「俺の場合は本当にただ巻き込まれただけだったけどな、こっちのエドは友人を殺されてる・・・間接的にではあるけどな」「二か月おきに行われた召喚事件、それに関わってる人間がいるという事で何か情報を得られないかと思って、僕とシズキは君に接触しようとしたんだ」結果はまぁ空振りに近い形だったけどねとエドは小さく肩を落とす、彼としても手がかりを得られるのではとかなり気合を入れていただけに落胆の色は隠せないようだった静希もそうであるように、また彼もリチャード・ロウにはいろいろと返さなければいけないものがあるのだ「つまり、三人は良くも悪くも同じ境遇の仲ってことよ・・・さっさと敵意向けるのやめてくれると助かるんだけど?」「そういうなメフィストフェレス、口で言ってすぐ理解できるような状況ではないのはお前にもわかるだろう」オロバスとにらみ合いをしていたメフィと先程やってきたヴァラファールが静希達に声をかける、さすがにこの状況を長時間つづけているのは問題があるだろう、少し場所を変えたほうがいいかもしれない「エド、こいつの保護を頼んでもいいか?こっちはこっちでやる事がある、こいつの処遇も考えておかなきゃいけないし、何より周りの軍を黙らせないとな」「わかったよ、とはいえ少々無理矢理突破して来たからなぁ・・・どうしたものか・・・」さすがにここまで来るのに誰も見られずに来たわけではないようだった、無理もない、軍と真正面からやり合っているエルフを半ば強引に引き連れてきたのだからだがそれなら取れる方法はいくらでもある、こちらが動かすことのできる駒はいくらでもあるのだから「手はずはこっちで整えるよ、少し時間はかかるけどな」そう言って無線で鏡花たちに連絡を取りながら静希はカロラインの前に片膝を立てて座る「カロライン、今からお前の監視にこいつがつく、話を聞くなり事情を確認するなり好きにしろ、今夜こいつと一緒に俺たちの部屋に来い、そこで話をしよう、異論はあるか?」「・・・他に条件は?」さすがに悪魔の契約者だけあって条件を隠していることくらいはお見通しのようだった静希はメフィとにらみ合いをしているオロバスに近づいてトランプを一枚取り出す「お前の悪魔を一度俺の能力の中に入れる、それとお前達に変装を施す、それだけだ」「・・・入れる・・・それに何の意味がある?」「答える義務はない、異論は?」グダグダ言わずにいう事を聞け、静希の言葉は有無を言わさない圧力があった相手をまだ信頼しきれていない以上、警戒は必要である、自分に対しても、そして監視をするエドのためにもカロラインはオロバスに視線を向けるが、どうやら彼はこの条件に異論はないようだった、恐らく未来を見たのだろう、信頼する悪魔が大丈夫だというのであれば異論はないとでもいうかのように彼女はしぶしぶ了承して見せた了承が取れたところで静希はオロバスに自分のトランプを触れさせる、瞬間その体がその場から消えトランプの中に収納されるもしカロラインが悪魔の心臓に細工をしていた場合、これで取り除けたことになる、そして一度トランプの中に入れたことで遠隔での収納も可能になった最低限の警戒としては必要不可欠なことを終え、静希はオロバスをこの場に取り出して見せたそして先ほど言ったとおり、静希が仮面を外したカロラインとフリッツに変装を施している中、先程無線で呼び出された鏡花がこの場にやってくる「静希、首尾はどう?・・・ってなんか妙なことになってるわね・・・」その場に悪魔三人がたむろしている状況に鏡花はいやそうな声を出しながら近づいてくるカロラインとオロバスが一瞬警戒の色を強めたが、こちらに敵意がないことを知るとすぐにそれを収める「鏡花、これからこいつとエドを警戒区域外に逃がす、手伝ってくれ」「はいはい、また面倒が増えたわけね・・・どうする?地下を進むの?」「いや入り組んだ場所を迷路みたくしながら一直線に進んでくれ、閉鎖してるところの軍人にあったら迷い込んだ夫婦ってことにしておけ、そうすりゃ問題ないだろ」鏡花の言う通り地下から進んでもよかったのだが、完全な密室状態で危険人物を鏡花と共にいさせるわけにはいかない、たとえエドが一緒にいても守り切れない可能性だってあるそれなら逃げ場があり消耗も少なく済む外で移動したほうが楽だと判断したのだ「そう言えば陽太は?あいつもこの辺りにいるんだろ?」「陽太は明利の警護に当たらせてるわ、邪薙だけじゃ不安だしね、なんか用事でもあったの?」「あぁ、あいつの勘が見事的中したってことを教えておこうと思ってな・・・こっちとしちゃ災難だよ全く」静希の言葉に鏡花は気の毒そうにしながらその場にいるカロラインの様子を見る血が滲んでいるとはいえ、いまだ右腕は骨折したままだ、軽く添え木がされているが万全とは言えないようなものだった「あんたもうちょっとちゃんと手当してあげなさいよ・・・適当過ぎよ」「仕方ないだろ、止血はできても骨折は慣れてないんだから、エド、こいつの治療も任せていいか?」「あぁ構わないよ、知り合いに頼んでさっさと治してもらうよ、さすがに即日ってわけにはいかないだろうけど」こういう時に大人のコネがあると楽なものだ、明利に治療させてもいいのだが、しっかりとした施設で専門の医者に任せた方が成功率は高い何より今回明利は非常によく働いてくれた、これ以上負担を強いるのは心苦しいのだ「よしできた、それじゃお前たちは鏡花の案内で外に行ってくれ、鏡花、明利に通信して一般人が紛れ込んでるって報告してナビしてもらえ、ヴァラファールたちは姿隠しておけよ」てきぱきと指示を出した後で静希は再び仮面をかぶりメフィをトランプの中にしまい込んだ、そして立ち上がるカロラインに顔を近づける「今日の夜、俺のところに来たら情報共有だ、どうせ相手が同じなら協力も一つの手だ、よく考えておけ」「・・・」カロラインはあえて何も答えなかったが、すでに頭の中はぐるぐると何かを考え始めている様だったそれが一体何のことなのかは静希は知る由もない鏡花の案内でエドとカロラインは無事警戒区域から脱出することに成功した様だった一般人を装っていたため、外に出るのは容易だったがその後が面倒だった静希が状況終了を告げ一度研究所に戻るとそこはもう酷い有り様だったのだ報告としては鏡花たちが上手く悪魔と交渉したとしか知らされていなかったために、まさか機材全て破壊するような状況になっているとは思わなかったのである召喚自体は成功、だが召喚による結果はほとんどなくなったようなものだ、これを成功と呼んでいいのかは微妙なところであるもっとも静希達は召喚自体を安全に行えるようにすればよかっただけであり、そこまでカバーしなくてはならない義務はない、何より悪魔の存在を軽視した研究側に問題があっただけのことである「お疲れ、ずいぶん酷い有り様だな」「あぁ、さすがに肝が冷えたっつーの、そっちはどうだった?」まぁまぁだなと返すと、陽太はそうかと興味なさそうに呟き、静希を明利の傍に引っ張ってくる、彼女はすでに仕事を終え、通信を終了し索敵に集中していたが静希が来たことで状況が終了したことを悟ったのか安堵の息を吐く「お疲れ様、無事でよかった」「あぁ、今回は収穫は微妙だけど、まぁ怪我は少なかった、不安にさせて悪かったな」明利の頭を撫でながら静希もようやく緊張の糸が切れたのか頬を緩ませる、今まで面倒な敵を相手にしていただけにその消耗は大きい、まだ完全に終わったわけではないとはいえ一息つくことはできたようだった明利にあった後静希は機材の塊の置いてある場所に近づく、そこには現場に指揮を送り続けているモーリスと、機材の残骸を見つめ続けているハインリヒの姿がある「侵入者は無事『排除』しました、そちらの成果は・・・微妙だったようですね」「ミスターイガラシ・・・今回の召喚は・・・成果はほとんどないと言っていい・・・上にどう報告すれば・・・」「人的被害がないのならまた次やればいい、悪魔を軽く見過ぎたのが原因でしょう・・・むしろこの周辺に悪魔が複数いたのにもかかわらず人的被害がゼロだったのは運が良かったという言葉では片づけられませんよ」研究所の周囲にいた悪魔の数は四、そのうちの半分は静希とエドだが、敵対する可能性のあった悪魔が二体もいた状態で死人が出ておらず、機材の被害だけだったのは幸運というにふさわしい鏡花が上手く立ち回ってくれたおかげで随分と楽になった、後ほど個人的に礼を言わなくてはいけないだろう彼女がいなければそれこそ四体の悪魔が交戦状態になるかもしれなかったのだから、彼女の功績は計り知れないものがある「あなたたちの上の存在がどういう意図で今回の実験を行ったのかは知りませんが、もし次があるのであればもっと戦力を増やし、なおかつ専門家を呼んだ方がいいと思います、次もまた自分たちがいるとは限りません」「・・・忠告痛み入る・・・とはいえ・・・どうしたものか・・・」モーリスとしてもどう報告していいものか悩んでいる様だった何ヵ国かで共同で行っていた召喚実験だっただけに、実験結果はその場にいた人間しか知りませんではお話にならないだろう、実験の結果はデータとして残り、それをまとめて報告してこそ意味がある生き残ったという意味では彼らの存在自体がデータのようなものかもしれないが、彼らに召喚を命じた人間はそれだけでは納得しないだろう、形として残る結果が必要なのだこの場にいた各責任者たちも納得していないのは表情を見ればわかる、召喚を主導で行っていたフランスとしてはこの失態は大きいだろうとはいえここにいても静希達ができることはない、すでに召喚が終わったのであれば後片付けが終わるまでは護衛をするつもりだった「少佐、俺たちはひとまずこの近辺の警戒をしています、後片付けは迅速にお願いしますよ」「・・・あぁ、わかっている」静希達の役目はすでに終わった、後は今回の事の後始末が残るばかりであるこうなってしまえば静希達一班がこの場にいる意味はないのだ警戒区域外にいる城島達にもこの状況を知らせなければいけない、今回のことも早めに報告しなければならないし今後の対応だって考えなければいけないのだ後片付けを悠長に見守っておかなければいけないほど彼らは未熟ではないし、静希達もいちいち面倒なことはしたくないただでさえ各国の人間が集まっている中でいつまでも顔を晒していたくないのだ、仮面はつけているとしてもその場にいたいとは思わない「明利、陽太、ここからは外に行くぞ、もうここに用はない」「了解」「オーライ、撤収するか」すでに護衛としての最低限の仕事は終えた、召喚陣も徐々に光を失いつつある、この場所にもはや脅威は存在しないそれに召喚を無事に行わせることこそ静希達の表向きの目的なのだ、静希達が行動するとすればあとはアフターサービスの警備くらいのものであるともかく警戒区域に人が入らないように注意するだけだ、そしてその間にこまめに外と連絡を取りたいところであるそう言えば自分についてきていた監視を振り切ったまま放置していたなと思い出しながら、静希は明利に預けていた邪薙のトランプを回収する、緊張状態に晒していたために邪薙にも後で礼を言っておかなければならないだろう小さくため息をつきながら静希は鏡花と合流するためにその場を後にした静希達と鏡花が合流してから数十分後、通信役の軍人が運よく静希達を見つけ今回はもう切り上げていいとの報告が入ったどうやら責任者たちへの弁明は何とかなったのだろう、後回しにしたかどうかはさておき今日はもう静希達に出番はないようだった「ったく・・・本当に死ぬかと思ったわよ、あんな交渉もう二度としないからね」「わかってるって、今回は本当に助かった、お前らが上手くやってくれたおかげで随分と楽になったんだ」嘘偽りのない静希の賛辞に鏡花はわずかに照れ臭そうにする、事実鏡花はそれだけのことをやってのけたのだ直接的な攻撃でも能力でもなく、対話によって悪魔を引き下がらせたのだ、その胆力は大人にも勝るものがあるだろうその気になれば、いやもし機会があれば彼女は静希と同じように契約者になれるかもしれない「ていうか、あいつ俺らのこと気に入ってたみたいだし、あのまま契約しちまってもよかったんじゃねえの?」「バカ言わないで、静希みたいに面倒事抱え込むのはごめんよ、それにうちにはベルがいるのよ?悪魔の気配で怯えちゃって生活もままならなくなるわよ」そう言えばと陽太は鏡花の家にいる犬のことを思い出す、動物は悪魔のような存在に機敏に反応する、単純に危機察知能力に長けているというのもあるが、言葉を介さないが故に自分にとって危険か否かという考え方しかないのだ話が通じればもっと別な行動もできるかもしれないが、そこは考えてもしょうがないことである『メフィとしてはどうだ?鏡花と悪魔は契約できると思うか?』こういう事は直接悪魔に聞いてみるのが一番手っ取り早い、鏡花が悪魔の契約者としての適性があるかどうか、今後面倒に関わってくる中でこれは案外重要なことだ『そうねぇ・・・好みによるだろうけど、まぁ悪くないと思うわよ?天才肌でありながら人間らしさが無くなってない、そういうのが好みの悪魔はいるわ、ただ苦労するとは思うけどね』「よかったな鏡花、場合によっては契約者としての適性ありだそうだ」静希の言葉に鏡花は嬉しくないわよと吐き捨てながら先頭を歩く、今回無駄に精神的に疲れているせいで鏡花はわずかに気が立っている様だった悪魔だけではなく、敵対関係にあるかもしれない契約者の送迎までやらされたのだ、無理もないかもしれないこれは本当に後日何か奢らなくてはならないなと思いながら静希達は警戒区域の外へと移動し、ホテルに戻る道すがら仮面を外して近くの店に入ったそこには事前に連絡しておき、待っていてもらった大野と小岩、そして城島の姿がある疲れた様子の静希達を見て、とりあえず大変だったのだろうことを把握したうえで笑顔で迎えてくれた「お疲れ様、首尾はどうだった?」「まぁまぁってところです、詳しいことは後ほど話します」とりあえず昼食をとるべく静希達はそれぞれ注文を済ませ、体よりも疲れた精神を休ませようと大きく息をついたその様子に城島は大まかにではあるが状況を察したのか、小さく安堵の息を吐いた「とりあえず、御苦労と言っておこう、私がやることがなかったのは良かったというべきか」「えぇ、今回は鏡花が上手くやってくれました、今回のMVPは鏡花で決定ですね」「褒められてる気がしないのは何でかしらね」静希の言葉を素直に受け止められない鏡花は口を尖らせながらそっぽを向いてしまう無理をさせたのは理解している、この反応も致し方なしだろうとはいえ、今のところ一番の懸念だった召喚が終了したのだ、後はエドが監視しているカロラインから話を聞くだけであるその前にいろいろと準備をしておかなければならないなと思い返し、静希は若干嫌気がさしていた夜までの間に準備を進めておいた方がいいだろう、事前連絡含め重要なことだ「五十嵐、一つだけ聞いておく、収穫はあったのか?」「・・・それはまだわかりません、それも含めて今日決まります」すでにことは終わったはずなのにまだわからない静希の言葉の意図を察したのか城島はそうかとだけ答えてカップに注がれていた紅茶を口に含む近くに監視の目がないとも限らない、言葉は最低限に、そして意思疎通は限られている中で行うのが良いだろう城島も質問を急がなかった、そうできるだけの余裕が幸いにして生まれているのだ、情報が漏れる危険を冒してまで結論を急く必要もない「せっかく時間ができたんだ、フランスの町でいろいろと観光したいもんだな」「そうだな、大野さんたちも自由行動でいいですよ、今回はもうやることなさそうですし」「そりゃありがたい、荒川たちにも伝えておくよ、あいつらも喜ぶ」せっかくフランスまで来たのだ、この空気を味わっておくためにも羽を伸ばすことも必要である幸いにして静希達には時間的な猶予ができた、少し位遊んでも誰も咎めないだろう引率の城島としても静希達がしっかりと実習をこなしたのであればこれ以上何か言うつもりはないようだった実際の時間で言えばすでに実習三日目、最終日のそれと同義だ、集中を持続していられるのも今日が限界だっただろう、そう言う意味ではいいタイミングで時間が空いたというものである日曜日で二回、誤字報告五件分で一回、ユニーク累計が1,000,000人突破したのでお祝いで一回、合計四回分投稿です要するに百万人の人がこの作品を見てくれたってことでいいんでしょうか?同じ人でも累計は貯まるのかな?まぁめでたいことには変わりありませんねこれからもお楽しみいただければ幸いです

護衛を終え全員がフランスの街を満喫していると、静希の携帯にエドから連絡が入るメールではなく電話であることから何かしら緊急の用事であることが覗えた「もしもし?何かあったか?」『あぁシズキ、いま彼女の治療が終わったところでね、その報告ついでに電話したんだよ』どうやら悪い知らせではなかったようだ、これでカロラインが脱走したなどという事になったら目も当てられないが、さすがにそんなミスを犯すような男ではなかったようだエドやヴァラファールだけではなく、アイナやレイシャもいるのだ、当然かもしれないだが良い知らせのはずなのにエドの声はあまり良いものではない、なんというか言い淀んでいる雰囲気が感じられた「・・・一応聞いておくけど、何か気になることでもあったか?」『・・・あぁ、ちょっとね、彼女の弟のことについてだ』カロラインの弟のフリッツ、最前線に侵入し軍人たちに負傷を負わせたエルフの少年、静希も実際にその眼で見ている小柄な男の子だ「あいつがどうかしたのか?姉が怪我して泣いてるとかか?」『その逆さ、泣きも笑いもしない、それどころか声を出すこともしないんだ・・・あの年の子にしては少し大人しすぎる』エドの言葉に静希はあの時見た少年の姿を思い出す、年のころは十に届くか届かないかという幼さだったように記憶している、最初にあった時は自分の姉の姿に驚愕して反応できないようにも取れたが、時間が経過しても何も反応しないというのは些かおかしい気がする「そっちでアクションはとってみたのか?話しかけたりだとか」『あぁ、うちの子たちが何度か話しかけているのだがまったく反応しないんだ、視線をこっちに向けることはあっても、口を開くことはなかったよ、表情も全く変えずにね』異常とまではいわずとも、その状態が正常ではないことは静希にも理解できた、普通肉親が怪我を負ったら心配するものであるそれをしないのはただ単に姉弟仲が悪いだけだろうか、否それだけではさすがに反応がおかしすぎるエドが判断しかねているのがよくわかる、いや判断しかねるというよりはどう接すればいいのかわからなくなっていると言った方が正しいかもしれないエドは良くも悪くも甘い男だ、それは優しさともとらえることができるかもしれないが、必要もないことまで抱え込む性分がある人間らしさともいえるかもしれないがエドにとってただ放っておくという選択肢はすでに無いように見えた「エド、とりあえずは彼女の見張りに徹してくれ、弟の方は今夜話し合おう、無理に話しかけるのはかえって逆効果かもしれない、一度時間を置いたほうがいい、くれぐれも気を付けてくれよ」『・・・あぁ、わかっている、少なくとも彼女たちは逃げるそぶりはなかったよ、僕がある程度事情を説明したらそれっきり大人しくなってくれた』エドがいったいどのような話をしたのか、少しだけ気になるが、そうなったのなら静希がとる行動は決まった、カロラインが逃げないのならこちらもそれ相応の態度で示すべきである『そうそう、彼女の治療でわかったことなんだけど、彼女の奇形は胸部にあるみたいだ、何でも綺麗な肌の色をしているそうだよ?』「おいおい、彼女がいる身で他の女性に現を抜かすのはどうなんだ?」静希はちょっとした冗談のつもりだったのだが君に言われたくないなぁと笑いながら返されると何も言えなくなってしまう二人の彼女を持つ静希としては耳が痛いことである「・・・悪いな面倒を押し付けて、今度なんか礼するよ」『ハハハ、そうだね、じゃあ今度お邪魔した時にでも手料理をごちそうしてもらおうか、それとも結婚のスピーチでもしてもらおうかな』気が早いんじゃないかと茶化しながら静希は本心から感謝していた、エドがいてくれたおかげで静希は随分と楽に動けた、カロラインの方に集中できたのもエドがしっかりと後方を支えていてくれたおかげであるそう言う意味では今回の陰の功労者はエドで間違いないだろう「お前の相棒にも伝えておいてくれ、今回は助かったって、お前の小さな社員にもな」『了解したよ、しっかり伝えておこう、最高の賛辞を受けたとね』エドの言葉に静希は薄く笑いながら、ふとあることを思いつく今後のことで必要なこと、考えておくべきことの一つ、それが解決するかもしれない内容だった「ところでエド、話は変わるけどお前の作った会社って新入社員は募集してるのか?」『なんだい藪から棒に、君たちだったら大歓迎だよ、いつでも最高の待遇でお迎えするさ、優秀な人間は喉から手が出るほど欲しいからね』エドの言葉に静希は小さく笑いながらそりゃ嬉しいなと返して見せる上手くいくかはわからないが、とりあえず静希はあることをするつもりだったもしかしたら面倒事を引き込むことになりかねないが、最善はつくすべきだ、それが巡り巡って自分のためになるかもしれないのだから「とりあえず頼んだ、今夜に俺の部屋に集合してくれ、二人も一緒に」『あぁ、任せておいてくれ、君は羽を伸ばすと良い、せっかくのフランスだ、楽しんでおいで』エドの言葉に静希は少しだけ安堵しながらわかってるよと告げて通話を切る自分もつかれているはずなのにああいう事を言えるのがエドの良いところだ、自分が女だったら惚れていただろうなと思いながら静希は近くにいる明利達に合流するべく足を動かした実習三日目日曜日の夜、静希達は夕食を終えた後静希の部屋に集まっていた事前にすでに確認してあったが、もう一度監視カメラや盗聴器などがないことを入念に確認し、エドたちがやってくるのを待っていた今回の騒動のほぼ中心にいた人物を連れてくるという事でその場にいる全員に緊張の色が見える、無理もないだろう、ただの能力者ならまだしもやってくるのは悪魔の契約者なのだから「・・・来たかな」静希がその気配を感じ取ると同時にオルビアが扉を開ける、そこにはちょうどインターフォンを鳴らそうとしていたエドの姿があった「おぉ、まさか扉に張り付いてたのかい?ナイスタイミングだよ」「さすがに悪魔二人分となるとわかりやすくてな・・・それじゃあ、話をしようか」エドに引き連れられて入ってきたカロラインの右腕にはギプスがつけられ完全に固定されている様だったさすがにこの短い時間では完全に治すことはできなかったのだろう、だが最低限の治療がしてあるのであれば問題ない、ここでは戦闘などは行わず、話をすることが目的なのだから「エドから大体の事情は聞いたか?今の状況で何か質問は?」部屋の中には静希を含め、人外たちもたむろしている、その中には先刻見ることがなかった邪薙やオルビアの姿もあるそしてエドも部屋の中に入るとヴァラファールを解放し近くの椅子に腰かけたいくら広い部屋とはいえこれほどまでに人が多いと流石に圧迫感があるこの状況を見て、彼女の中にいた悪魔、オロバスもここは自分も姿を現すべきだと判断したのかカロラインの横に顕現して見せるこの場に悪魔が三人、神格が一人、霊装が一人、恐ろしいほどの人外過密地帯になってしまっているそんな中、カロラインは静希に視線を向けた「・・・イガラシ・シズキ、君について聞きたい、構わないか?」「あぁ、何でもは教えられないけどな」「何故、リチャード・ロウを追う?」回り道などしない直球な質問に、その場の空気が一気に緊張感に満ちていく返答によってはこちらとしても容赦しない、そう言う感情がその言葉と視線に込められているのを静希は察していただからこそ、嘘偽りなく答えるつもりだった「あいつのせいでえらく面倒なことになってるんだ、しかも一度俺を潰そうと手を回してきたこともあってな、さすがに看過できない、見つけたら今までの報いを受けてもらう」僅かに怒気を孕んだ言葉に、静希のそう言う表情を見慣れていない大野と小岩は僅かにたじろいでいる様だったカロラインはその言葉と感情を真正面から受け止め、その上で小さく息をつく「こっちからも一つ聞いていいか?お前についてのことだ」「・・・あぁ、何でもは答えられないがな」先程のお返しだろうか、その言葉に静希は苦笑しながらもカロラインを見る「何でお前、今日能力を使わなかった?手を抜いてたのか?違うだろ?何故使わなかった?」それは静希がずっと疑問に思っていたことだ、今日の戦闘でわかったのは、彼女の契約している悪魔の能力が予知系統で、彼女はその力を利用して静希と戦っていたという事だだがせっかくエルフなのに何故能力を使わないのか、そこがずっと腑に落ちなかったのだ自らも強い力を持っているというのにそれを使わないなど宝の持ち腐れ以外の何物でもない、しかも手を抜いていたとは思えなかったのだ手を抜いて負けていたのでは話にならない、静希の予想は彼女は能力を使わなかったのではなく、使えなかったという状態だったという事、あるいは戦闘において役に立たない能力であることだ「・・・自分の能力について易々と教えると思うか?」「教えてくれるならこっちの能力も教えよう、せっかくお話しできてるんだ、きっちりギブ&テイクといこうぜ」静希の能力は知られたところでそこまで痛手にはならない、対応されようと彼女に対してであればごり押しで対応できるそして何より、この場に来たことで静希はすでに彼女を敵としてみていなかった敵の懐の中に入り込むだけ、言葉にすれば簡単だが悪魔がいるような場所に自ら足を運ぶというのは生半可な覚悟ではない、彼女はここに話をしに来ているのだ、戦闘がないと確信したうえでその確信がオロバスの予知によるものかどうかは知らないが、戦闘する気がないという事なら静希はすでに交渉の状態に入る準備があった相手に信用されるには、自分の手の内を明かす必要がある、その為ならば自分の矮小な能力の一つや二つ明かしても問題はない「なんなら先に俺から種明かししようか?その代り俺がしゃべったらお前はしゃべるまでここから出られないと思え?」「・・・いや、そこまでする必要はない・・・おおよそ予測はできているのだろうが・・・私は今能力が使えない状態にある」能力が使えない状態、そんな状態になった人間がいるなどと聞いたことがないが、少なくともそれなりの事情があるのだろう、カロラインの言葉を待ちながら静希は彼女の視線をたどるその先には彼女と一緒にやってきていた弟のフリッツの姿があるこの状況にも全く動じず、直立不動の構えをとるその少年を見てカロラインはつらそうな表情をしていた「・・・そいつが原因なのか?」「・・・そうだ」静希の言葉に否定することなく答えるカロラインに、その場の全員が首を傾げた弟が原因で能力を使えない、弟がかつて静希が対峙した江本のような他人の能力を操作する能力を有しているかとも考えたが、静希もエドも彼が軍人を攻撃しているのをこの目で見ている、どういう事なのだろうかと疑問を抱いている中、カロラインはつらそうに弟の姿を見続けているこれ以上言葉にすることは憚れるのだろうか、彼女の口は重く、それ以上口にしてくれなかった静希が弟のフリッツに近づいてその瞳をのぞき込む、だが彼は一体どこを見ているのかもわからないような表情をしたままだ、体に触れても何の反応も見せない「明利、ちょっとこいつに同調してみてくれ」「う、うん・・・わかった」明利がフリッツの近くに歩み寄りその手に触れて同調しようとするが、上手くいかず、もう一度試みてみても明利はフリッツに同調することができなかった「・・・あれ・・・同調できない・・・?」「・・・同調できない・・・?・・・っ!まさか」静希は思い当たる節があった、この中で唯一静希だけがその可能性に気が付いたそしてメフィを一瞬見た後でカロラインに視線を向ける「・・・カロライン・・・お前、自分の弟を使い魔にしたのか?」「・・・そうだ」静希の言葉を理解できていなかった明利は数秒してその意味を理解した、なにせ彼女はフィアが使い魔となった瞬間を目にしているそして近くにいた鏡花や城島もその言葉の意味を理解したつまり、フリッツは一度死に、カロラインの魔素を供給することで動いているという事である「私の家族は、私以外みな殺され・・・家族をよみがえらせることができないかとオロバスに聞いた、その中で一番幼かったフリッツなら近しいことなら可能だと言われたためそれを実行した・・・その結果が・・・これだ」生き返ったように見えている、ただそれだけ、実際は主の思うが儘に、魔素によって動く肉人形生き返ったなどとは決して言えない、言えるはずもない状態である「メフィ、人間を使い魔にした場合、その供給する魔素ってどれくらいになるんだ?」「・・・かなり多くなるわね、大きなものを動かすにはそれだけたくさんのエネルギーが必要、フィアみたいに小さければ静希の魔素でも十分補えるけど・・・この大きさだと・・・」メフィはフリッツを見て口元に手を当てて考え出す、カロラインがフリッツを使い魔にして供給している魔素は恐らく膨大な量になっているのだろうそれこそ彼女自身が魔素が使える余裕がなくなるほどに「無理をすれば能力を使うことはできる・・・だが威力は小さくなるし・・・体の奇形は進む・・・私としてもとりたい手段ではない」静希は何らかの理由で能力が使えないという事までは予想していた、だがまさか弟を使い魔にしているとまでは予想できなかったこれで昼にエドが抱えていた疑問が解消されたことになる、人間らしさとでもいえばいいか、子供にもかかわらず彼は子供らしい反応をしていない、それもそのはずだ、彼は使い魔ですでに死んでおり、生きているように見えているだけなのだから「何度も・・・何度も死なせてやろうと、壊そうと思った・・・だが・・・その度に弟の顔が浮かぶ・・・私にはできなかった・・・」カロラインの苦悶の表情にその場にいた全員が複雑そうな表情をする中、静希が口を開く「じゃあ・・・お前の召喚の時殺されたのは・・・お前以外の家族全員だったのか」「そうだ・・・私が召喚に集中している隙をついて・・・奴が・・・」その当時のことを思い出したのか、彼女の表情は憎しみと怒りに支配されているように見えた不憫だ静希はそう言う感情しか湧いてこなかった家族を殺され、一人だけ助けられるかもしれないと思い縋りついたその結果、得られたのはその家族を冒涜することになっているかもしれない操り人形のような存在彼女としても悔いただろう、だが同時に弟の姿のままである使い魔を前に、壊すこともできなかったのだ自分が許されないことをしているというのがわかっていても、どんな形であっても動いている弟の姿を見て、肉親である彼女が何も思わないはずがないのだ叶う事ならこのまま動いていてほしい、だがいつかは終わらせなくてはならない二つの矛盾した感情を抱えたまま、カロラインは苦しんでいたのだろう、そして今も苦しみ続けているだが彼女もいい大人、自分のしでかしたことに対しての覚悟はすでにできているのか先程までの表情を一変させて静希の方を見る「さぁ、私が能力を使えない理由は話した・・・次はイガラシ、君の能力を教えてもらおう」さすがにしっかりしている、そこは大人という事かと感心しながら静希は懐からトランプを出してそれを宙に浮かせる空中に浮くトランプに一瞬目を奪われながらもカロラインは静希の言葉を待っていた「これが俺の能力『歪む切り札』だ、系統は収納、この中に五百グラム以下のものを入れられる、そこにちょっとした付加効果があるけどな」そう言って静希は自分の能力のことを包み隠さず教えた、自分の手の内をすべて明かすつもりでカロラインに話した、そうするだけの価値が彼女にあると思ったからである月曜日で二回、誤字報告を五件分受けたので一回、合計三回分投稿です明日は二周年記念でたくさん投稿する予定ですこれからもお楽しみいただければ幸いです

「てなわけだ、わかったか?」「・・・あぁ、理解した・・・だが良かったのか?自分の能力を明かすなど」「あぁ、信用されるには手の内を明かすしかない、どこかの誰かさんの時もやったことだしな」そう静希が言うとエドが頭を掻いて気まずそうにしてしまう、静希は過去エドと遭遇した時、彼と共闘する際に自らの手の内をすべて明かした何をするかわからない相手を、何か隠し事をしている相手を人間は信用しない、静希はそれを理解しているのだ「ねぇ静希、こういっちゃなんだけどこんな話をするためにこの人をここに呼んだ訳?何かほかにもあるんじゃないの?」鏡花の言葉にさすが鏡花姐さんと静希は嬉しそうに笑って見せる、彼女としてはまだカロラインのことを信用しきっていないようだったが、静希がわざわざここに足を運ばせた理由がこれだけとは、鏡花には思えなかったのだそしてそれは城島も感じていることだった、疑り深く、同時に思慮深い静希がたったこれだけのために危険人物を自らの懐に入れるはずがないそして彼女たちの思っている通り静希にはまだ話すべきことが残っていた「じゃあそろそろ本題に入るけど、カロライン、お前今リチャード・ロウに対する情報はどれだけ持ってる?召喚を行うきっかけになった時のことも含めて教えてほしい」カロラインが召喚を行ったこと自体は間違いない、という事は彼女は一度リチャードと会っているのだ、恐らくは静希が関わったエルフの村と同じような状況だろうことは予想できた「奴が私に接触してきたのは去年の今頃だった、悪魔の召喚陣を提供すると・・・その時は特に気にも留めていなかったが父からやるべきだと後押しされてな・・・実験の数日前には家の近くに宿をとって様子を見に来ていた」「その時何か気になることは?素顔とか」「いや、奴は常に顔を隠していた・・・声も常に変声機を使っている様だった、今にして思えば何故奴を信用したのか・・・事件が起きた後は私にもわからない、あれから随分と調べているのだが、足取り一つ・・・」父からの後押しというのは、恐らくエルフの威信の問題だったのだろう、彼女の父親が一体どの程度状況を理解していたのかはわからないが、恐らくは単なる善意で召喚を勧めたとみて間違いないだろう悪魔の力を手に入れられればその力を利用して大々的に自らの力を見せつけられる、エルフの威信をかけるというのはまさに文字通りというわけだカロラインが落ち込んでいる様子を見て静希は二、三回指を上下に動かすと、小さく手を叩き乾いた音を部屋の中に響かせた「よし、カロライン、本題に入ろう、お前俺たちの仲間になるつもりはないか?」「・・・は?」その言葉にカロラインは一瞬何を言っているのかわからない風だったが、静希の仲間である鏡花と城島は目を見開いてた「ちょっと静希、正気!?なんでこの人をそんなに信頼できるわけ?敵と繋がってるかもしれないのよ!?」「清水に賛成だ、先程の話も、悲劇に見せかけた作り話である可能性だってある、こいつが信頼に足るとは思えん」鏡花と城島は客観的に見てカロラインが未だ信頼するに足る人物だとは判断していないようだった、それは十分理解できる、なにせ彼女の話は何の証拠もなく、ただ彼女がそうであると主張しているだけなのだから自分は犯人ではなく、殺された弟を使い魔にしたのも生き返らせられると思ったから、そしてリチャードを追っているというのもすべてでまかせかもしれない、静希に近づくためについた嘘かもしれないエドの時とは違いもう何の証明もできない今、彼女が示すことができるものは自分の言葉だけだというのはわかるが、だとしても鏡花はカロラインのことを信用できなかった「静希、あんたが何でこの人を信用したのかは知らないけど、一つ忠告しておくわ、女は平気でうそを付ける生き物なのよ?そう言う演技もできるし、その気になれば涙の一つだって流せるわ、もしこの人の表情だとか態度で信用するって決めたならやめておきなさい」随分な言いようだなと静希は呆れてしまうが、なにも静希だってその場の態度や言葉だけで彼女を信頼したわけではない「エド、お前今日こいつと一緒にいてどう思った?」「どうって・・・そうだなぁ・・・理知的な人だと思ったよ、同時に少々不安定なところもある、まぁ悪い人ではないと思うけどね」「そうか、なら大丈夫だろ」あまりにも理由になっていない内容に鏡花は呆れ果ててしまう、エドが大丈夫だと感じたから大丈夫、なんて理屈にもなっていない「あんた本気で言ってるわけ・・・?」「結構本気だよ、エドは人を見る目がある、後ついでに俺の勘がそう言ってる」こいつは大丈夫だって、そう付け足して笑う静希、かつて城島に勘を鍛えろと言われた気がするが、静希はなんとなく人を見て、観察して、自分にとって害になるか否かを見極められるようになってきたようだった少なくとも静希にとってカロラインは害にはならない、そう感じていた「それに、もし敵になったのなら、その時は叩き潰せばいいだけだろ?もう手の内は互いにばれてるんだ、その時は全力で相手するよ」静希の向けた冷酷な視線にその場にいたほとんどの人間が寒気を覚えながら鏡花も城島も不承不承ながらに納得する、いや納得はしていないのだが静希がこうなったら考えは覆さない、それを経験上知っているのだ結局自分が苦労することになるのにとため息をつく女性二名を置いて静希はカロラインに向かい合う「どうだカロライン、俺たちの仲間にならないか?」静希の問いかけにカロラインは嬉しいような悲しいような複雑そうな表情をしていた誘ってくれたこと自体は嬉しいのだが、それがかえって心苦しいと言った面持ちのように見える「・・・ありがたいが、それはできない・・・私は世間では犯罪者にされている、君たちのような者たちとは行動を共にはできない・・・残念だが・・・」事実がどうあれ、現在カロラインは殺人を犯した罪で指名手配されてしまっている、所謂犯罪者だ、そんな人間が学生や社会人と一緒に行動することは難しい先程の鏡花や城島が過敏に反応した様に、能力者の犯罪者には世間は厳しい、国にもよるがほとんどの国では見つかった瞬間に射殺されてもおかしくないのだ先程の鏡花たちの反応がすべてを物語っていると言っていい、疑われ危険視される、それは仕方のないことだ、だから彼女は仲間を作るという事を最初からあきらめていた「なるほど、じゃあお前が犯罪者扱いされてなければ仲間になってくれるんだな?」「・・・え?」静希はそう言った後で携帯を取り出しどこかに電話をかけ始める「もしもし?俺、例の件だけど・・・うん、二人・・・あぁ、よろしく頼むぞ?・・・あ?俺に恩を返すいい機会じゃねえかグダグダ言わずにやれ」静希はそう言い放った後で通話を切る、そして満面の笑みでカロラインに視線を向ける「カロライン、そしてその弟フリッツ、お前たちは今から死んでもらう」死んでもらう、その言葉にカロラインはわずかに身を強張らせるが、自分の近くにいる悪魔が全く動じていないことから、その必要がないことを察したのか、訝しむような表情をしながら静希を見つめるその言葉の真意を測り兼ねているのだ「・・・どういうことか、説明してもらえるか?」「いいぞ、それより先にエド、昼に言ってたよな?優秀な人間は大歓迎だって」静希の言葉にエドはもちろんさと軽快に返して見せる、彼はすでに静希が何をしようとしているのかを察している様だった細かいことはさておき、彼がどのような形で結末を迎えさせようとしているのは理解できているとみて間違いない「静希、あんたまさかエドモンドさんに押し付けるつもり?」「押し付けるって嫌な言いかただな、まぁ間違ってはいない、けど犯罪者を押し付けるつもりはないよ、ちゃんと手は打ってある」それは静希が昼間にあらかじめ連絡して手はずを整えてもらったことだったすでに先方と話は通してある、後は実行までにカロラインに了承をとることだけだ「・・・三日後に、お前達の死体がとある場所で発見される、お前たちの体そのままの死体だ、社会的にはお前たちはその日に死亡が確認されることになる、そしてお前達には手術を受けてもらう、体や顔を変える整形手術だな」すでに司法解剖とかの根回しも済んでいるそうだという静希のその言葉を聞いてその場にいた全員が静希が考えている内容を理解した静希はカロラインとフリッツという人間を社会的に、そして公的に殺し、まったく新しい人生を歩ませようとしているのだ一度死亡が確認され、整形をしてしまえばその後を追うのは難しくなる、特に静希が連絡したのは裏の業界を知り尽くしたテオドールだった死体を用意するのも、手術の手筈を整えるのもお手の物である事前に静希が連絡を取り、万が一陽太の勘が当たった時の備えとして準備だけはしておいてもらったのだ、まさか当たるとは思っていなかったが「だが五十嵐、仮にこいつらを死んだことにできたとして、新しい人間が唐突に生まれたことになるが?そこはどうするつもりだ?」城島のいう事は正しい、人が死んだのに今までいなかった人間が唐突に現れるという事はそれだけ違和感を生じさせる、ただ生きるだけなら苦労しないだろうが、いつどこで生まれどのように成長してきたのか、そう言う記録がないと生きにくいのは確かだ「問題ありません、新しい顔と名前さえ確立できればすでに書類上の偽造の手筈は済んでいるそうです、後は本人の希望次第ってとこですね」生まれたところも、その親も、友人も卒業した学校も全て用意してある、新たに犯罪さえ起こさなければ怪しまれることはないように調整してもらっているそのために静希はテオドールにわざわざ連絡したのだ、取れる手はすべてとる、あらかじめの事前準備ほど大事なものはない「三日間は大人しくしてもらうが、それが終われば手術して、新しい名前を決めてエドの会社に就職できる、福利厚生は知らないけどちゃんと給料は出ると思うぞ?なぁエド」「もちろん、そこはしっかりしてるから任せてくれ、住む場所だってしっかりあるよ、移動しっぱなしっていうデメリットはあるけれど有給だってしっかりとれるように計らおう」二人の契約者の会話についていけていないのか、カロラインは茫然としてしまっている何故彼らは自分にこうまでしてくれるのか、それが理解できなかったのだ今日あったばかりの悪魔の契約者、それだけで警戒に値する、最悪殺しておいた方が良いのではないかと思えるような人間に対して何故こうも手を差し伸べるのか「・・・何故・・・私を助けようとする?君はなにが目的なんだ?」その考えや行動が理解ができないカロラインの言葉に、静希は僅かに眉を顰めながらどう答えたものかと悩みだす、そして隠すこともないと、取り繕う必要もないと思い考えていることをそのままいう事にした「単純に言えば、戦力は多いに越したことはないって感じかな、これからリチャードを敵に回すうえで、戦力は多い方がいい、ただの能力者じゃなく、お前はエルフで契約者だ、これ以上の戦力はないだろ?」リチャード・ロウの目的が一体何なのかは全く不明な状態だ、だが悪魔の召喚を多く行っているような人間が、自らの手駒の中に悪魔を含めていないとは考えられなかったのだ最悪、複数の悪魔と契約していても何ら不思議はない、その時に自分の味方になってくれる契約者が一人でも欲しかったのだ「シズキは随分へそ曲がりだね、僕の時もそうだったけど素直に助けたいって言えばいいのに」「エド、お前の時だって事件を解決する過程で偶然助けただけなんだぞ?別に俺は人助けが好きってわけじゃない、結果的に助けた形になったってだけだ、お前の会社に就職させようとしてるのだって、裏切らないか監視させるためってのもあるんだぞ?」エドの窮地を救ったときは、事件を解決するために必要だったからそうしたまで、そしていまカロラインを救おうとしているのは、あくまで自分の戦力にしたいから下心もあるし、思惑もある、それを隠そうともせず真正面から伝えたうえで選ばせる監視させるという内容を隠そうともせず、真正面から言ってのけるこの少年、一体何を考えているのかわからない、こちらに対してどういう事を考えているのかをすべて明かしたうえで選択を迫る、その結果が救うという形になる静希はそうやって誰かとの関わりを深めていくのだ、絆というには少々歪な、利害関係を表に出した普通とはかけ離れた信頼という形を作っていく不思議な少年だカロラインは静希を見ながら、心の底からそう思っていた周りの反応から見るに、静希は善人であるようには見えない、むしろどちらかというと悪人のそれに近い、なのに全員が静希の動向を許容し、信用しているそしていまカロライン自身も、この少年なら信じられると、そう感じている「エドモンドさんに迷惑かけるのはあれだけど、監視っていうのは正しいと思うわね、まだ信用しきれないし」「あぁ、言葉だけじゃ信用に値しない、信用は行動で勝ち取るものだからな、これからのこいつの一挙一動で判断する」鏡花の言葉に賛同したうえで、静希はさて、と言葉を切ってカロラインに向き合う「もう一度聞くぞカロライン・エレギン、俺たちの仲間にならないか?一人よりも二人よりも、何人も一緒にいたほうが楽ができるぞ」静希の言葉は嘘偽りのない本心だ、自分の思惑をすべて話したうえでの説得、隠そうとしない利害を真正面から受け止めてカロラインは薄く笑った「あぁ・・・エドモンド、君がこの少年を信頼できると言っていた意味がようやく分かったよ」カロラインの言葉にエドは自慢げに微笑んで見せる、口にしなくとも『言ったとおりだろう?』と言っているのがその表情から読み取れるようだったそして数秒考えた後で、カロラインは改めて静希の方を見る「・・・あぁ、わかった、君の申し出を受けよう、この命が尽きるまで、私は君の仲間であることを誓おう」その言葉を受けて静希は満足そうに笑う、その場にいた他の人間は少し心配そうにしていたが、静希が満足しているという事でこれ以上言及はしないようだった「・・・よし、それじゃあいろいろとやることがあるからな、エド、お前はこいつに付き添ってやってくれ、アイナ、レイシャよかったな、お前達に後輩ができるぞ」静希の言葉にエドは了解だよと返事をし、アイナとレイシャは初めてできる後輩という言葉に目を輝かせていた今まで自分たちが一番の下っ端だったこともあり、下の存在ができたという事が非常に嬉しいようだった「イガラシ、一ついいか?」「ん?なんだ?」「先程新しい名を確立と言っていたが、それは私が決めてもいいのか?」新しく生きる上で、自分の新しい名は必要になる、何よりも大事なことでもあるのだ顔は手術の方針によって変わるため、今のところ決められるのは名前くらいのものである「あぁ、あらかじめ言ってくれればその名前で登録してもらうように掛け合うよ」「・・・そうか・・・わかった」カロラインは何かを考えている様だったが、それ以上静希に何かを聞くことはなかった彼女としても何か思惑があるのだろう、それ以上聞くことはせず静希は改めてテオドールに連絡する、準備を急ぐようにと「まったく、教師のいる前で堂々と違法行為の算段とはな」「はは、俺は何もしませんよ、やるのはあくまで向こうです、ただの学生風情にそんなハチャメチャなことはできませんよ」静希の言葉に城島はよく言うとため息をつきながら額に手を当てる犯罪者を犯罪者でなくすために社会的に死なせて新しく生きさせる手筈ができるような学生などどこにいるだろうか今まで関わってきた人間にそういう方面に特化していたという事もあるだろうが、それを思っても実行できないのが普通であるそこまで考えて改めて実感する静希は普通ではない良くも悪くも静希は普通という枠組みからは外れている、性格的にも能力的にも、そして今までの経歴も交友関係からしても本来なら、教師としては犯罪行為を助長しているという点では静希を叱るべきところなのだろう、だが静希はリスクに対するリターンというものをよく把握している今回の場合、死体を用意するのも、新しい人間のデータを作るのも全てテオドールの方で行っている、もしばれた時に割を食うのは彼だ、今回のリスクは実質上完全にテオドールとカロラインの方にしか向かないことになるそしてそれに対し静希が得たものは悪魔の契約者との交友関係という、金を積んでも手に入れられないものだった、自分に対しては限りなく低いリスクで、限りなく高いリターンを得られたことになるそう言う意味では、一人の能力者としてはむしろ静希を褒めるべきなのかもしれないと、教師と能力者の狭間で城島はどちらの対応をするべきか悩んでいた静希が目的としている内容の話を終え、エドに引き連れられたカロラインはその場を後にしていたこの後手術を受けるというのと、いろいろ書類上の手続きがあるのだ、ある場所でテオドールの部下と落ち合うように手配してあるため、あとは彼らが上手くやるだけである「にしてもあんた・・・いつからこれを考えてたの?また悪魔の契約者を味方に引き入れるなんて」「ん・・・まぁ考えと準備自体は陽太が予想したあたりからだけど、実際に動いたのは予想が当たってたってわかってからだよ、まさか当たるとは思ってなかったからさ」実際陽太の考えの八割は当たらない、だが時折発揮する直感は血の力とでもいうべきか、物事を完全に見越したような考えをする今回はまさにそれだった、あり得ない思考ではないとはいえ完全にカロラインについてのことを言い当てたのだそう言う意味ではお手柄といえるのだろうが、本人はそのことを全く自覚していないだろう「これでお前とお前の交友関係を含め、悪魔の契約者は三人か・・・戦争でも起こすつもりか?」「冗談やめてくださいよ、こっちはあくまで平和的に事を進めたいんですから」悪魔を対処するには大隊レベルの軍事力が必要になる、その悪魔が三人もそろっている、この力だけではなく、連携まで駆使したとなれば城島の言うように戦争だって可能なレベルの戦力はすでに集まっていることになるしかもその中心人物である静希は悪魔だけではなく神格や霊装を引き連れている、一学生が有していいような武力ではないのはもはや明らかである「ちなみに先生、悪魔が一人いるとどれくらいの相手だったら互角に戦えます?前は対応するには大隊レベルが必要になるとか言われましたけど」「ん・・・また難しい質問だな・・・互角に戦うには大隊では足りないだろうな」今まであまり例がなかったのか、鏡花の質問に城島は本格的に悩みだしてしまうなにせ悪魔との遭遇例自体があまりないのだ、軍においてその戦闘経験などもあまりないしその事例もあまりないだろう今回の事でもはっきりしたが、対応するだけなら大隊レベルの軍事力は必要だろう、ただ勝つことができるか、あるいは互角に持ち込めるかどうかは微妙なところであるただの能力者が集まったところで悪魔には勝てない、それは今回からのことでも明らかだただ圧倒的に悪魔と軍との遭遇が少ないとはいえ、前例がないわけではないのだ「戦時中の話になるが、確かある海域で某国の艦隊が一つ丸ごと潰されたというのがあったな、その時は契約者ではなくたんに悪魔と遭遇したというだけの話だったと記憶しているが・・・」「艦隊って・・・どのレベルのですか?」海における戦闘で艦隊というのはその規模によって戦力を変える、基本軍艦二隻以上あれば艦隊として認められるが、その中に空母はあるのか、またその数はどれほどかという風に性能と数によって戦力は大きく変わるただの小型戦艦二つを潰しただけなら、そこまでの評価は得られるか微妙なところだ「確かその時は・・・大型戦艦と空母を含め・・・確か十三ほどの艦隊だったと記憶している、その為戦況は大きく傾いたのだとか」「・・・ごめんなさい規模が大きすぎてどれくらいすごいのかわからないです」いくら艦隊の規模を説明されてもどれくらいの相手と戦えるのかという事に対するイメージが全く湧いてこなかったのだ、そもそも艦隊と言うものの力さえ分かっていないため例としては少し良くなかったかもしれないそこで城島はわかりやすい例を出すことにした「そうだな、過去日本で活躍した日本軍の能力者部隊が合同で撃沈させたのは大型戦艦が一つと、駆逐艦が二つ、そして重巡洋艦、軽巡洋艦が一つずつだったはずだ、しかも一度ではなく何度も戦闘を繰り返しての戦果だ、手練れの能力者が集まってそのレベル、どれくらいのかは理解できたか?」能力者が何十人も集まって、長い時間戦ってようやくそのレベルの戦果だというのに、悪魔はそれ以上のことをたった一人でしかも一瞬でやってのける陸上と違い海上での戦いという事もあって条件も大きく変わっているだろうが、さすがに桁が違うというにふさわしい力である「契約している悪魔は契約者を守るために少々保守的になるとは思うが、それでも三人・・・今回のオロバスの持つ予知の力が加わると、その総合の戦闘能力ははるかに跳ね上がるだろうな」能力者において重要視されるのは個人の能力よりも連携である、各個人の能力を最大限に発揮し、協調することで一個人にはできないことを多くやってのけることができるその連携の力を悪魔の契約者が行ったらどうなるか存在するだけでプレッシャーを放つ悪魔の契約者が三人、もしその三人が連携をとり、互いに協力し合った場合、恐らく師団、いや軍団から軍レベルの武力が必要になるそれこそ航空支援などを含めた総力戦にならないと勝てないかもしれない、いやもしかしたらそれすら通じないかもしれない予知の能力を持つ悪魔、一撃で巨大な建造物を破壊できる悪魔、人に対して凶悪な威力を誇る悪魔この三つの種類が集まっている状況で、人間が勝ちを拾える状況を城島は想定できなかったそれこそ大量殺戮兵器、あるいは戦略級の兵器を使わなくてはならないかもしれない仮にそれらを使ったとしても、予知によって防がれる可能性があるのだ、それほどに絶望的な状況を作れるだけの戦力を静希はすでに有していることになる改めて思う、静希を敵に回してはいけないと普段はただの学生のように見えるのに、時折城島も気圧されるほどのプレッシャーを放つときがある自分の教え子は怪物に育ってしまっているのかもしれないと思いながら、城島は小さくため息を吐いた実習の目的である召喚を無事に終え、後は事後処理を見守るだけとなった静希達はフランスの街を観光しながら帰国までの時間を優雅に過ごすことにしたもちろん片づけを手伝ったり、時折顔を出したりと最低限のフォローをしながら、帰国までのわずかな時間を満喫することにしていたそのあいだにもエドモンドと連絡を取りあったところ、整形手術及び手続は無事終了したとのことだったこれで彼女はこれから新しい人生を歩むことになる、もっともその道は茨かもしれないが事後処理も観光も無事に終わり、静希達は日本に帰国することになったその飛行機の中で今週末提出のレポートを書かされることになったのは言うまでもない他の生徒と実習の期間が違うとはいえ、実習のレポートの提出期限はほとんど同じなのだもう少し融通を利かせてくれてもいいのではと思ってしまうのだが、これ以上はもはや言うまいなにせ今回は静希が主導で持ち込んだ面倒事だったのだ、学校側にも迷惑をかけたし何より班員にも、そして大野たちにも迷惑をかけた、このくらいは甘んじて受けるべきなのかもしれない巻き込まれただけの鏡花たちにも同じ待遇を強いるのは非常に申し訳なく思ったが、これもまた仕方のないことだろう、彼女たちも半ばあきらめている様だった「やっと帰ってきた・・・我が国日本!」長時間のフライトを乗り越えようやく日本の大地を踏みしめた時、全員が行ったのはただ一つ大きなため息だったなにせ長時間飛行機の中に拘束され続けたのだ、ため息が出るのも無理もないと言うものである「にしても疲れたわいろんな意味で・・・帰って休みたい・・・」「まったくだ、服とかも全部洗濯しないと・・・」一人暮らしとはいえオルビアがいる静希にとってそこまでの負担ではないにせよ、実習が終わった後の家事は非常に億劫になる特にオルビアは料理の類はできないためにそのあたりが一番面倒なのだ「それじゃあ五十嵐君、俺たちはこれで失礼するよ、今回は楽しい旅をありがとう」「あー・・・今回はご迷惑をおかけしました、本当にありがとうございます」気にしないでくれよといいながら手を振り去っていく大野たちを見送りながら静希は大きくため息をつく今回はそこまで戦闘に巻き込むという事はなかったとはいえ、大の大人の約一週間を海外で過ごさせるというのはかなり迷惑になっただろう、そう言う意味ではこういう事は二度と起こさない方が無難だ彼らとしてはほぼタダで海外旅行ができたという事で嬉しかったようなのだが、静希としては申し訳ない気持ちでいっぱいである「先生、とりあえず今日はこれで解散ですか?」「そうだな、お前達も疲れがあるだろう、今日は各自解散だ、といっても途中までいっしょかもしれんがな」帰国の手続きも終え空港のエントランスにたどり着いたところで城島が全員にねぎらいの言葉をかけ、この場で解散となろうとした瞬間、その人物が静希の目に入るそしてどうやら一緒に帰るのは難しいことを悟った「陽太、鏡花、頑張れよ」「は?なによいきなり」「これ以上何をがんばるっていうんだよ、もう今日は帰って寝たいよ」「ほう、奇遇だな、私も丁度家に帰ろうとしていたところだ」陽太にとっては聞きなれた、鏡花にとっては久しぶりのその声に、二人は凍り付いたこの二人が可能なら出会いたくなかった人物筆頭である響陽太の実姉、響実月である「実月さんお久しぶりです・・・『奇遇』ですね」「あぁ静希君、それに明利も、久しぶり・・・『偶然』こちらに帰る予定ができてしまってな、飛行機を適当にとったら『偶々』君たちに会えるとは、僥倖だったよ」こんな狙い済ました偶然があるものかと静希と明利は顔をひきつらせているが、陽太と鏡花の表情は二人の比ではないなにせ二人が付き合うことになってから実月に出会うのは初めてなのだ、一体どういう反応をされるかわかったものではない本人が知っているかどうかは定かではないが、恐らく知っているとみて間違いないだろうでなければこうして日本に帰ってくる理由がない「ちなみに実月さんは何で日本に?まさか単に帰省ってわけでもないでしょう?」「もちろん、ある筋から陽太に関する面白い話を聞けてな、こうして駆けつけたわけだ」面白い話、まず間違いなく鏡花と陽太が付き合い始めたという情報だろう、実月が日本に帰ってくるなんて陽太のため以外にはありえないある筋そう言われて思いつくのは二人のことを知っているエドモンドか、実月の師匠のカエデ位である、以前情報のやり取りをした際にエドモンドとのつながりを得た実月はそれを限りなく有効活用している様だった疲れたところを見計らってやってきたところを見ると、完全に逃がすつもりはないようだった「というわけで陽太、それに鏡花ちゃん、どうだろう帰る途中で一緒にちょっとお茶でもいかがかな?」いつの間に距離を詰めたのか、二人の肩を掴んで実月が満面の笑みを浮かべると陽太と鏡花は冷や汗を滴らせる「お・・・俺さっさと寝たいんだけど・・・勘弁してくれないか姉貴」「わ、私がいると姉弟水入らずの邪魔になっちゃうと思うんですけど・・・」「なに気にすることはない、私もいろいろ聞きたいことがあるんだ、それでは静希君、明利、そして先生方、お先に失礼させていただきます」そう言って二人を荷物ごと引きずる実月と、引きずられていく二人を哀れみの目で見ながら静希と明利は二人に手を振って別れを告げたその後、鏡花と陽太が付き合うという事を正式に実月に報告し、根掘り葉掘りいろいろと聞かれた二人だが、そこまでつらいという事はなかったようだ問い詰められはしたものの、否定されることも拒否されることもなく、むしろ弟を頼むとまで言われたらしい最初肩を掴まれたときは心臓が止まるかと思ったと鏡花は語ったが、結果的に良い方向に物事が運んだととるべきだろうそして、国外の校外実習から一週間ほどが経過した時、静希の家にある客がやってきていた一人は仕事を終え、ある人物を引き合わせに来たエドモンドとアイナにレイシャ、そしてもう一人、いや二人連れて静希の家を訪ねていた「おぉ、予想より早かったな、まぁあがれ」「お邪魔するよ」エドを先頭に全員が中に入ると、部屋の中でその場に人外たちが勢ぞろいするそこにはオロバスの姿もあったそしてその傍らにいる女性と、少年が一人女性の方は右手にまだ包帯を巻いており、骨折が治りきっていないことを表していた「さぁ、自己紹介をしてもらおうか、初めましてお嬢さん」「・・・そうだな・・・初めましてシズキ・イガラシ、私の名前はカレン・アイギス、こっちは弟のリット・アイギスだ」そう言って差し伸べてきた手を、静希は違和感なく受け止めるカレン・アイギスとリット・アイギスかつてのカロライン・エレギンとフリッツ・エレギンの新しい姿だ顔こそ違うものの、その声は以前と変わらず、さらに今までつけていた半分だけの仮面をつけるのをやめたようだったエルフとしてではなく、ただの人として生きるという意志表示だろうか、仮面の重要性をそこまで詳しく知らない静希にとってはさしたる変化には見えない「アイギスとは・・・また仰々しい名前を付けたもんだな」アイギスとは神話の中で度々名を見かける盾の名前である、現代ではイージスと呼ばれることもあり、イージス艦の名前の由来にもなっている「私としては狙ったつもりはないんだ、君たちのファミリーネームを貰ったんだよ」イガラシ、パークス、そしてエレギン、この三つを組み合わせて読み方を変え、アイギスとしたのだという以前エドが立ち上げたアイガースのそれに近い物だろうか自分の名字が他人の名前の一部になるというのは、なかなかこそばゆい物である「カレンとリットはお前たちの名前の略称か」「そうだ、私達の親からもらった名前だ、捨てるのは憚られたのでな」カレンとリットこの姉弟がどのように生きていくのか静希は全く予想できないが、少なくとも憑き物が落ちたような表情をしていた、立場が変わることで身が軽くなったというだけでずいぶん心境の変化があったのだろう「今彼女には僕の仕事を手伝ってもらいながら各地での情報収集に協力してもらっているよ、なかなか物覚えが早くて教える方としても嬉しい限りさ」「へぇ、こりゃうかうかしていられないんじゃないか?先輩方?」静希がちらりとアイナとレイシャの方を向くと、二人は憤慨した様でそんなことはありませんと同時に静希に食って掛かる自分の方が先輩なのだから自分の方が優秀であるべきなのだと主張するかのように体を大きく見せようと腕を振り上げているその様子がおかしいのか微笑ましいのか、カロライン改めカレンは薄く笑みを浮かべている「新しい生活に慣れるのには時間がかかるだろうけど、まぁゆっくり慣れればいいさ、何か情報が入ったらエドを経由して教えるよ」「あぁ・・・助かる・・・」礼を言うカレンだが、何かほかにも言うべきことがあるのか、少々もどかしそうにしながら静希の前に立つ「・・・君のおかげで、私は本当に助かった・・・感謝してもしきれない・・・ありがとう、シズキ・イガラシ」「静希でいいよ、それにしっかりギブ&テイクは保っていくんだからそこまで気にすることはない、どっかの誰かにも言われただろ?」その言葉と一緒に視線を向けられたどこかの誰かもといエドはそれが当たり前であるかのように微笑んで見せる静希は彼女を救う手を差し伸べ、エドは彼女に社会的な地位を与えた、二人がいなければ今のカレンはない、彼女自身それをよく理解しているだからこそ感謝してもし足りないのだ「これから面倒に巻き込まれることも多くなるだろうけど、しっかり働いてもらうぞ?貴重な戦力なんだからな」「あぁ、任せてくれ・・・シズキ、もし君が窮地に立たされたなら、必ず私が助けに向かおう、私は何があっても君の味方であると誓う、いざという時はいくらでも私を頼ってくれ、必ず力になる」静希の手を握ってそう言うカレンのまっすぐな瞳を見て、静希は思わず笑い出してしまった「な、なんだ、何かおかしなことを言ったか」「いいや、どこかの誰かさんも同じようなことを言ってたなって思い出しただけだ」それはかつて、エドが空港で静希と別れる時に言っていた言葉に似ている、そしてその言葉通りエドは静希が危機に際した時に駆けつけ、静希の助けとなって見せた「そうか・・・なら私たちはいつでも君の味方だ、それだけ覚えていてくれればそれでいい」「・・・あぁ、期待してるよ、カレン」新しい顔と、新しい名と、新しい立場で迎えた、初めての約束静希はカレンとしっかりと握手をし、互いを認め合ったこれから彼らがどのようなことに巻き込まれ、どのような未来へと進むのかその場にいるすべての存在が興味を持ちながらも誰も知らないその未来に、静希達悪魔の契約者は互いに結束を深めたのであった二周年なのでお祝い投稿中、6/20投稿終了、あと14回分ですね話の区切りとしてこの話は六回分投稿しました、次はこの一時間後に投稿するようにしておきますこれからもお楽しみいただければ幸いです

あなたも好きかも:スロット 刃牙 天井期待値
海外での校外実習を無事に終え、静希達は日本での平穏を満喫していた時は三月、徐々に終わっていく冬と近づいてくる春の陽気に静希達は平和ボケといわなくとも安寧の日々を過ごしていたそんな中、珍しく陽太が単独で静希の家にやってきていた用件はたった一つ、バレンタインのお返しを作成するためである「というわけでお菓子作り教えてください!」「・・・とりあえず扉の前で土下座はやめてくれ」こんなやり取りを挟んだ後で静希は何事もなかったかのように陽太を家に招き入れた開口一番、というわけでなどといわれて一体どういうわけだと聞き返したくなるが、そこは陽太だ、いちいち細かいことは考えていないだろう「あれ、なんだよ明利達いないのかよ、てっきりいると思ったのに」「なるほどそっちが本命か、残念だったな、明利と雪姉は鏡花の家にガールズトークしに行ったよ」陽太の思惑としては普段静希の家に入り浸る明利にお菓子の作り方を教えてもらおうとしたのだろう、休日にわざわざ家に足を運んだかと思えば自分ではなく明利が目的だったという事もあり、静希の心境は少し微妙だったが気持ちはわからなくもないお菓子作りだけではなく明利は料理全般が得意だ、静希のような一人暮らし用の適当なものではなく、かなりレベルの高い調理を行えるそう言う意味では静希もむしろ指導してほしかったくらいなのだが、さすがに渡す本人に指導を受けるというのはさすがにないなと思ったのだ「うぇ・・・せっかく来たのに・・・静希がお菓子なんて作れるはずないしなぁ・・・無駄足かぁ・・・」「勝手に来ておいて失礼なこと言いやがって、ほれ茶だ・・・買ったもんじゃダメなのか?」「そこはお前手作りの方が愛がこもってるだろ?」静希から受け取った紅茶を一気飲みしながら陽太が愛などという言葉を使ったことで静希は僅かに吐き気を催すが、鏡花にとってはこれほどなくうれしいことになるだろうそして陽太なりに鏡花のことを想っていることがうかがえる、二人の関係は静希としてはよく知らないのだが、少なくともよい方向に向かっているのだと思いたいものである「ちなみにお前はどうするんだ?買ったやつにするのか?」「いや、俺はちょっとその手のプロに指導してもらおうかと思ってな」静希の言葉に陽太はなんだと!?と大げさに反応して見せる、いつの間に静希にそんな人脈ができていたのだという事に驚いているのだろう、抜け駆けされたことを少し悔しそうにもしていた「ずるいぞ静希!お前だけそんな知り合いがいるなんて!」「何言ってんだ、お前も知ってる人だぞ、ほれカエデさんだよ、あの人一応喫茶店やってるだろ」カエデその名前と同時に陽太の脳裏に筋肉質で厚化粧の女性服を着た男性の姿が思い浮かぶ陽太にとって忘れたくても忘れられない実姉の師匠、まさかその名前がここで出てくるとは思わなかったのだろう、あまりの衝撃に少々気分を悪くしている様だった「あ・・・あの人か・・・でもお菓子作りなんてできんのかよ・・・」「一応聞いてみたらクッキーでもケーキでも何でも作れるってさ、教える分には大歓迎だって・・・人は見かけによらないよな」あの筋肉質な体と濃い顔面をしながら繊細な洋菓子を作ることが容易であるというのはさすがにイメージが異なりすぎる、だが実際それを含めて生計を立てているのだ、それに静希もその菓子を何度か口にしたことがある、腕は確かだろうあの外見で料理をしている姿が全く想像できないのは、仕方のないことかもしれない「他に誰か作れる人居ないのかよ、身近にさぁ」「明利のおばさんとかなら作れるだろうけど・・・さすがになぁ、俺があげる相手の母親だぞ、後俺らの知り合いの女子あるいは女性というと・・・城島先生とか?」「ねーな、あの人がお菓子作りとかねーわ」名前が出た瞬間に否定した陽太を見て静希は小さく苦笑してしまう、もしこの場に城島がいたらまず間違いなく陽太の顔面はボールのようにバウンドしていただろうだが陽太の言うように城島がお菓子を作っているところなど想像できないかつてバレンタインの時に明利に頼み込んで手作り菓子に挑戦していたこともあるわけだが、静希達は知る由もない「メフィとかオルビアとかさぁ、菓子の一つや二つ作れねぇの?見た目は凄い女っぽいのに」「見た目で技術が身につくなら苦労はないわね、少しは自分で何とかしたらどうなの?」こちらに目を向けることもなくメフィはゲームに没頭している、今彼女がやっているのはレーシングゲーム、それもオンライン対戦ができるタイプのものだ、全世界のプレイヤーたちと対戦し腕を磨いているのだがこれがなかなか難しいようである「私は料理の類は苦手でして・・・ご期待に添えず申し訳ありません・・・」そもそも騎士として育てられ生きてきたオルビアに料理のことを求めるのが酷と言うものだ、それに自分ができないことを相手に求めるというのもナンセンスである「どうせならお前も来るか?一人くらいならカエデさんも許してくれると思うぞ?っていうかお前なら大丈夫だと思うぞ?」実月さんの弟だしと付け足して静希が提案するのだが、陽太は果てしなく気が重いようだった昔あったことがあるらしいのだが陽太はそのことをすっかり忘れている、それに実月の師匠だからこそ少々苦手意識があるのだもちろんあの外見に気圧されるというのも理由の一つだが、こればかりは理屈ではないようだったとはいうものの、いくら陽太が嫌がっていたとはいえ他に頼る術がないのもまた事実であるこうなれば苦手意識がどうのなど言っていられない、しっかりとしたものを渡さねば鏡花になにを言われるかわかったものではないのだ「まぁお前が嫌なら無理にとは言わないけどさ、どうせお前が行く行かないにかかわらず俺はカエデさんの所に行くし」例え陽太が行くと言っても行かないと言っても静希の予定は変わらない、静希についていくかいかないかは陽太の自由であるその結果どうなるかは静希にも分からないのだから「うぐぅぅ・・・俺に選べというのか・・・でもあの人苦手なんだよ・・・」「それは外見の話か?それとも内面の話か」「両方だよ」どうやら陽太は強烈な外見もあの性格も少し苦手なようだった、何もかも見透かしているような独特の視線と喋り方、そして含みを付けた笑い、そこまで陽太が苦手なタイプであるようには見えないがどうやらあの外見と内面の両方が合わさってかなり苦手な印象があるようだった確かに静希もあの外見と強烈なキャラクターには少々どころかかなり気圧されるところがある、世話になっているという事もありすでに慣れたが、慣れない人にとっては同じ空間にいたいとはお世辞にも言えない人であるのはまず間違いない何がどうしてカエデがあのようなことになったのかは本当に謎である「ていうかお前はあの人のどこが苦手なんだよ、普通にいい人じゃんか」「いい人だってのはわかってんだよ・・・でもあの人姉貴の師匠なんだろ?俺のこといろいろばらされるとあれじゃんか」あれじゃんかといわれてもいったいどれだと言いたくなるが、なんとなく陽太の言いたいことはわかる、要するに陽太はカエデを通じて実月にいろいろと情報をリークされないかと心配しているのだまず間違いなくカエデは実月と繋がっているだろうが、今さら何を心配するようなことがあるのかとため息をついてしまう、すでに陽太のプライバシーなどないに等しいというのにいや、陽太の場合実月にいろいろなことを知られるが嫌なのだろう、姉に対してここまで苦手意識を持っているというのも難儀なものである「でもそうなると他に頼れる人は?恥を忍んで明利に頼むか?確実に鏡花にもばれるだろうけど」「い・・・いや・・・ばれるのは避けたいな、たまにはびっくりさせてやりたい・・・!俺だって菓子の一つ作れるんだってことを見せつけてやる!」妙にやる気がある陽太に、静希はなんとなく彼の状況を把握する、きっと鏡花に『別にそこまでのものは期待してないから安心しなさい』とか言われたのだろう、その評価をひっくり返すために躍起になっている様だった付き合っているというのにやっていることは以前とあまり変わらないのではないかと思ってしまうのだが、付き合い方は人それぞれ、陽太達には陽太たちなりの過ごし方があるのだろうそれにしても相手を喜ばせたいではなく相手に評価を改めさせたいという理由でバレンタインのお返しの菓子を手作りをするのは陽太くらいだろう「陽太、どっちをとるか秤にかけてみろよ、カエデさんの指導を受けるか、それとも手作りは諦めるか」「ま、まだ他の人を頼るという選択肢が」「誰を頼るんだよ、俺らの中で菓子作りができるのなんて明利と鏡花くらいのものだぞ、その二人に頼れない今誰に頼るっていうんだ」静希の正論に返す言葉が無くなったのか陽太は悔しそうな表情をしながら苦悶している、陽太自身わかっているのだ、すでに選択肢はないに等しいのだという事を「それにお前が何をばれないようにしたいのか知らないけど、要はお前が何もしゃべらなきゃいいだけだろ、仕草だけで相手の心を読めるほどあの人は読心術長けてないぞ・・・たぶん」確信は持てないものの、カエデはそこまで読心に長けているというわけではないように思える、どのような感情を抱いているか程度はわかるかもしれないが何を考えているかまで言い当てられるほどの技術はないと予想していたないと言い切れないのがカエデの恐ろしいところだが、少なくとも陽太が隠したいような内容は口に出さなければ問題ないだろう「そ・・・そうかな」「お前が下手なこと言わなければな、そもそも黙っててくれって言えばちゃんと秘密にしてくれると思うぞ」カエデは喫茶店だけではなく情報屋も営んでいる、もし第三者からその情報を買うと言われたらまず間違いなく売るだろうが、そんなものを買うのは実月以外には思いつかないそう考えると知られた時点でアウトかもしれないが、そこはあえて伏せておくことにした「そ、そうだよな、俺が口を滑らせなければいいんだ・・・うん、よしその作戦で行こう」「作戦も何もないけどな、午後から約束してるからもうちょっと時間潰してろ」静希の言葉によっしゃと声を出しながらゲームに興じているメフィに戦いを挑むために陽太はコントローラーを取り出して颯爽とゲーム機に取り付け始める作戦などといっていたが、ただ黙っていることが作戦になるのならこの世のどんな事柄だって作戦になるだろうと静希は呆れていたただなんとも陽太らしい、単純であほらしいが一番手っ取り早い対応である結果的に自分がフォローすることになるが、そこはもう慣れっこである「いらっしゃい・・・ってあら静希君、ちょっと早かったじゃない?」陽太を引き連れてカエデの営む店にやってくると、いつも通り濃い顔面と異様な外見をしたカエデが二人を迎えてくれるいつ見ても衝撃的な外見をしているなとしみじみと思いながら静希は陽太を連れて店の中に入る「あら、陽太君もいたのね、バレンタインのお返しを作りたいの?二人そろってプレイボーイねぇ」「あはは・・・えっと菓子作り習うの一人追加ってことでお願いします」静希との言葉にカエデはわかったわといいながらカウンターの奥に消えていく恐らく何かしら準備をするのだろうが店を開けていて大丈夫なのだろうか、幸い店の中に客はいないようだったが、誰か来た時に店主がいないのはさすがに問題ではないだろうか習いに来ておいてなんだが、菓子を作るのはそれなりに時間もかかる、その間まさか店を放置するつもりだろうかと少々心配になってしまう思えば従業員などの姿も見たことがないなとあたりを見渡すが店内には一人もいない、完全にカエデが一人で切り盛りしているのだろう「はい、準備できたわよ、奥にいらっしゃい」「わかりました、ほれ陽太行くぞ」静希の言葉に陽太は口を開かずにびしりと敬礼して見せる、どうやら頑なまでにしゃべることをしないつもりのようだ、この作戦がいつまで続くのか見ものである厨房に入ると静希達にエプロンと髪を留めるためのバンダナのようなものを渡される、こういうところは結構しっかりしているのだなと思ったのだが、カエデの姿を見て二人はうわぁと内心ドン引きしてしまっているフリルのついたピンクのエプロンを化粧をして女性服に身を包んだ筋肉質な男性が着ているのだ、これを見てドン引きしない人間がいるなら見てみたいものである「それじゃあ菓子づくり講座・・・というかバレンタインのお返し作りを始めましょうか、何を作りたいとかリクエストはあるの?」「えっと・・・とりあえず無難にクッキーとかいいなと思ってますけど・・・陽太は?」陽太は何も言わずに首を縦に振っている、恐らく陽太もクッキーでいいと思っているのだろう、さすがにしゃべらないでやり取りをするのは非常に面倒くさい、早い段階でやめさせた方がいいかもしれないと思いながら静希は小さくため息をつく「クッキーねぇ・・・何クッキーがいいの?チョコでもバターでも何でもできるだけの材料はあるけど」「そうですね・・・とりあえずいくつか種類を作ってみたいなと思ってます、一種類だけじゃちょっと寂しいし」明利達はかなりしっかりとしたものを作ってきてくれたのだ、こちらとしてもそれなりのもので返したいと思うのは当然だろう三倍返しという言葉があるが、これに関しては完全にプライスレスだ、手作りのものに値段を付けられるはずもなく、それならこちらも手作りで応じるしかないと思ったのだ「それならいろいろ作ってみましょうか、最初は型に入れて・・・慣れてきたら自分で形を作ってみましょ」そう言ってカエデは調理器具の中からいろいろな形をしているケースのようなものを取り出す、これを使って生地を整形するらしい形もいろいろあったほうが視覚的に楽しめるかもしれない、そう言うアプローチもあるのかと静希は興味深そうにしている『これでシズキがお菓子作れるようになったら毎日食べ放題ね』『ほほう、悪くないな・・・シズキ、ここはケーキの作り方を学んだらどうだ』『あ、あなたたち勝手なことを言うのはやめなさい、マスターのご迷惑になります』勝手なことを言うメフィと邪薙にオルビアの叱咤が飛ぶが、彼女も声が少し揺らいでいるところを見ると少々誘惑に反応しているようだった毎日ケーキが味わえるかもしれないという誘惑は人外にとってなかなかに魅力的なようだった、こちらとしては御免こうむりたいところなのだが「ところで静希君、なんでさっきから陽太君はしゃべらないの?」準備をしているさなかカエデが静希に顔を近づけて声を小さくしながらそんなことを聞いてくる、今まで一言もしゃべらないのをさすがに不思議がったのだろう、もともとの陽太の性格を考えれば無理もないことである「あー・・・まぁいろいろありまして、ちょっと今喋ろうとしないんです」「ふぅん・・・あー・・・なるほどそういう事ね、秘密を守ろうとしてるわけだ」陽太の方を見て一瞬警戒した瞳と表情を見たことでカエデはなんとなく状況を察したのか不敵な笑みを浮かべる自分が警戒されている、あるいは自分がいるからしゃべりたくないというところから陽太が何を思ってしゃべらないようにしているのかを察したのだろう、さすがは実月の師匠だというべきだろう実月が機械などを通して情報を掴むのを得意としているのに対し、カエデはどちらかというと人を観察して情報を引き出すことに長けているように思えた人間観察とでもいえばいいか、その人の性格や趣向などを条件に当てはめて表情や声音、視線の動きなどまでも考慮して相手が何を考えているのかどのような感情を抱いているのかを把握する読心術の基礎にもなっているだろうが、彼女はそれを突き詰めている様だった無論相手の心の全てを読むとまではいかないだろうが、持ち前の情報収集能力でそれを補い、高いレベルでの読心を会得している様だった自分ではなく他人がそれをやられているところを見るとその技術の高さを理解できる、仮に静希が真似しようとしてもほとんどうまくいかないだろう静希がやるのは相手を追い詰めるか、圧力をかけて最善の動きをさせない状態で動きを読む程度だ、平常状態の相手の考えを予測できるほど優れた頭脳と技術は持ち合わせていないのだ静希と陽太がカエデの元で菓子作りに勤しんでいる間、ガールズトークをしていると言っていた明利、鏡花、雪奈は鏡花の家に集まっていたそして三人の中で雪奈だけ下着姿である、別にいかがわしい行為をするためではなく明利の能力によって同調を行い健康診断のようなことをしていたのだそれもこれも正月についてしまった肉をそぎ落とす行為が上手くいったかどうかの確認である明利の能力があれば体脂肪率や体重などもほぼ一発でわかるが、視覚的な状態を確認するために服を脱いでいたのだ恥じらう事なく堂々としているその姿は男らしすぎるが、鏡花はあえてそこには触れずに雪奈の体のサイズをそれぞれ測定しメモしていた「どうだい私のこの二か月近く絞った体は・・・!痩せてる?痩せてる!?」「とりあえず動かないでください、いちいちポージングすると測りにくいですから」何故強調するためのポーズがボディビルダーがよくやるものなのか、女性であればセクシーなポーズの一つでもやればいいのになぜやらないのか、鏡花は突っ込みたくなるがぐっとこらえて黙々と雪奈の体を測定していく「うん・・・でも結構痩せてきてますよ、お尻のあたりにちょっとお肉が残ってますけど・・・ほとんど以前の雪奈さんのものに相違ないです」「う・・・まだお尻のシェイプアップが足りなかったかぁ・・・ここの肉落しにくいんだよねぇ・・・」個人差もあるだろうが人によって体の部位の肉が落ちやすかったり落ちにくかったりというのはよくある話である、雪奈の場合尻についた肉が落ちにくいらしい、以前より少しだけ肉付きが良くなっている尻を触りながら雪奈は落胆している「多少肉がついたくらいならいいんじゃないですか?明利、正月より前の体重にほとんど戻ってるのよね?」「うん、グラム単位での変動はあるけどほとんど戻ってるよ、肌艶も髪の状態も変わらず健康体」明利がいると医者いらずだなと思いながらも鏡花は明利がつけているメモを覗き見るそれはすべて鏡花の知らない言語で書かれている、恐らくドイツ語なのだろうがかなり崩して書いているために書いた本人でしかわからないだろう明利曰くこれも医者になるための勉強らしい、思えばもうすぐ彼女は医師になるための資格試験があるという本来医師免許を取得するための試験は二月に行われるのだが、能力者が受けるための試験は一般人が受ける試験の一か月程度後になる、つまり普通の人が合格発表を見ている時期に試験を受けることになるこれは難易度の調整のためでもあるし、何より試験場の調整をするためでもあるその年度の試験と合格者の比率から、さらに難易度をあげ、何より受験人数の多い場所に試験場を設置するためである本来であれば大きな都市のある県など、全国に試験場が複数設置されるのだが、能力者の医師試験の受験者自体が少ないために毎年一つしか試験場を準備しないのだそう言う事情もあって一か月近く遅い試験、ホワイトデーの少し前に試験を受けると明利は言っていたが、どうなるかは全く分からない静希は心配していないと言っていたし、雪奈は大丈夫だろうと楽観しているが、こんなことをしていていいのだろうかと思ってしまう「うぅ、お尻が大きいのはいやだなぁ・・・もうちょっと小さくならないものか」「そんなに気になるなら静希に揉んでもらえばいいじゃないですか、マッサージで痩せるかもしれませんよ?」「いやん鏡花ちゃんそんな事したらダイエットじゃなくなっちゃうじゃんよ」揉むという行為に対していったい何を想像したのか知らないが、雪奈は顔をわずかに赤くしながら恥ずかしそうに笑っている全くこの人はとあきれ返りながら鏡花は近くにある布を使って一着の服を作り出した、先程まで測っていた雪奈の体に合うように調整したものである「はい雪奈さん、試着してみてください」今日雪奈がここにやってきたのはこれも理由の一つだった、僅かであるとはいえ体形が変わったために服の微調整をしてもらいに来たのである身近に変換系統の能力者がいると仕立て人は全くいらなくなるからありがたいものである「おぉありがと鏡花ちゃん、んんんん、うんぴったり、でもちょっと腕が動かしにくいかな・・・」「あー・・・なるほど、じゃあもうちょっとゆとりを作りますね、他にきついところとかは?」「今のところはないかな、ちょっと動いてみるね」そう言うと雪奈は軽く体を動かしてみせる、屈伸運動や前屈、軽くジャンプなどをして見せた後大きく体をのけぞらせて伸びをする一通り体の動きに対しての服の様子を見ていると、雪奈は唸りだす「あー・・・あれだね、足を大きく広げるとちょっと窮屈かな、後は問題なさそう」「わかりました、調節します・・・にしてもピッタリに作るっていうのも案外難しい物ね、サイズに合うようにしても着心地は別物だからなぁ・・・」サイズを測り、それにピッタリになるように服を作ってもそれが最高の着心地か言われると首をかしげてしまう着心地などというものは個人に差があり、何よりサイズに合わせれば着やすいと言うものではないのだ身の回りにあるものはそれなりに作ってきた鏡花だったが、本格的な衣服の作成というのは実はあまり経験はない、特に元からあるものを使うのではなくただの布から服を作った経験はほぼ皆無といってもいいのだ大量投降10/20、今回は四回分、あと二回、五回分を投稿しますきっと誤字がすごいことになるんだろうとか考えている今日この頃これからもお楽しみいただければ幸いです

あなたも好きかも:将軍 パチンコ
「鏡花ちゃんがいるとありがたいなぁ、昔着てた服も調整してもらおうかな」「あんまりたくさんはいやですよ、そもそも結構面倒なんですから」元々価値のあるものを作ることは違法なためにそこまで練度が高くなく、一つ作るのにもそれなりに集中が必要なために鏡花にとって衣服を作るというのはなかなか骨の折れる作業だったなにせ服を作るうえで縫い目や折り目なども作らなければいけないのだ鏡花の能力ならそんなものがなくても服の形にできるがそれでは能力で作ったものだと一発でばれてしまう、こういうところでしっかりと証拠がないようにしなければいけないのが面倒な点の一つなのである「そういや鏡花ちゃん、せっかくの休みなのに陽と一緒にいなくてよかったの?」「まぁ・・・陽太は今日は多分四苦八苦してますよ、静希の所にでも行ってるんじゃないですか?」バレンタインのお返しについて陽太に告げた言葉を思い出しながら、今日きっと手作りの菓子を作ろうと奔走しているところだろうと鏡花は予想していた、その予想は大まかにではあるが当たっているカエデのことが頭に浮かばないのはあの外見のせいだろうか、それともただ単にかかわりが薄かっただけだろうか「一応実月さんにお許しはもらえたんでしょ?せっかくなんだし一緒にイチャイチャしてればよかったのに」「そうしてもよかったんですけどね、あいつにもあいつなりに考えがあるんですよ・・・」実月の話題が出てきたことで鏡花は空港でのことを思い出していた先日偶然という体で空港に突如現れた実月によって根掘り葉掘り二人の状況を聞きだされ生きた心地がしなかった鏡花だが、実月が極度のブラコンとはいえ最低限の常識はわきまえていたのか、それとも静希から鏡花の評判を聞いていたからか二人が付き合う事には何の不満もなさそうだったそのとき彼女が見せた表情は、喜びでもあり悲しみでもあり、悔しさでもあり嬉しさでもあるようだった今まで自分が守ってきた、自分が見つめてきた弟を好きになってくれる人ができた喜び、いつの間にか弟が自分を必要としなくなったのだという悲しみ、そして自分だけのものではなくなっていた悔しさ、そして自分の弟が誰かを好きになったのだという嬉しさ手がかかっただけに、溺愛していただけにその感情は複雑だ彼女は重度のブラコンではあるが、陽太の実の姉だ、陽太が自分を選べないという事も、選んではいけないことも昔からわかっていることだ、だからこそ安心したし、同時に大事にしていたものを奪われたような気にもなってしまう「ちなみに実月さんはなんて言ってたの?何かしら言われたんでしょ?」「・・・不出来な弟だがよろしく頼むって、そう言ってました」「・・・実月さんにしては珍しい言い方だね・・・」陽太のことを溺愛している彼女の口から陽太を貶すような言葉が出るとは思っていなかったのだ実月のことを昔から知る雪奈と明利からしたらそんな言葉が彼女から出てくることが不思議でならなかった、もしかしたら実月なりのけじめなのかもしれない今までもずっと姉としての立場を保ってきたが、陽太に恋人ができたという事でその立場をさらに厳格にするべくあえてそのような言葉を言ったのかもしれないだが鏡花は実月のあの複雑な表情が忘れられない喜怒哀楽をすべて含めたような表情と、そこから出る抑揚がない代わりに僅かに揺れる声自分の思っていることをすべて押し込んで弟のために自分を殺しているようなそんな気がした「雪奈さん、実月さんって昔はどんな人だったんですか?」「昔?また唐突だねぇ・・・そうだなぁ、私達より年上ってのもあったけど、落ち着いた人だったかなぁ、大人しいんじゃなくて落ち着いた感じ」大人しいと落ち着いたという言葉は似ているようでまったく違う、大人しいというのは明利のように自己主張が少なく、活発ではない性格をしている人物に当てはまるが、落ち着いているというのは物事を冷静に見ることができ、なおかつ対処できるような人物に当てはまる言葉だ確かに実月は落ち着いたという印象を受ける、自分たちとそう年が離れていないのに随分と落ち着いた姿をしている、陽太のことに関しては少々暴走しがちなところがあるようだが「遊んでるときとかも怪我とかしないように気を配ってたり、やっちゃいけないこととかはさせないようにしてたなぁ、今思うといいお姉さんって感じだったよ」「そうですね、何度もお世話になりましたし・・・陽太君にはちょっとアグレッシブだったけど・・・」実月の評価に関しては明利も雪奈も大体一緒であるようだった、自分達より年上のお姉さん、冷静で落ち着いていて、陽太のことを溺愛している大事に思っているからこそ引き際をわきまえているという事もあるのだろうがこのままでいいのだろうかと鏡花は唸ってしまう実月は陽太を大事にしているが、その逆はどうだろう、陽太は実月のことをどう思っているのだろうか苦手意識があるのは理解している、だがだからといってこのままの関係ではあまりにも実月が浮かばれないような気がしたのだ「陽太が実月さんを苦手なのって、あの過剰な愛情表現が原因ですよね」「たぶんね、陽は親御さんと上手くいってないからその分を実月さんが補填しようとした感じかな」「陽太君もそのあたりはわかってると思うんだけど、たぶん恥ずかしいんだと思うよ?」確かに陽太程の年齢であれば、いや歳は関係なく男の子なら女姉弟に抱き着かれて恥ずかしくないはずがない、だからといって邪険にしていいはずはないのだ何とかしなきゃいけないなと思いながら鏡花は雪奈の服の修正を終えていく「さぁて今度はうまくいってるかしら?」鏡花たちがそんな話に花を咲かせている中、バレンタインのお返しを作っている静希達は何度目かの試作品の完成度を確かめていたオーブンから取り出されたクッキーを眺めて静希はおぉと小さく息を吐く芳ばしい洋菓子独特の甘い空気、クッキーから空気に染みだすその中にわずかに混じる乳製品の持つ特徴的な柔らかい匂いが静希達の鼻孔をくすぐる「見た目はいいわね、後は味はどうかしら?」カエデが熱々のクッキーを一つ手に取って口の中に放り込む、サクサクとクッキーが噛み砕かれる音と共に口の中に甘さと僅かな苦みを含んだカカオの香りが広がっていく静希達もその後に続き自分たちが作ったクッキーを口の中に入れる、いくつもの種類を作った中で一番好感触だったのはチョコを混ぜた生地で作ったクッキーだった紅茶や抹茶などを混ぜたクッキーも作ったのだが、確かに茶独特の香りはするものの少々渋みが強くなってしまっている、混ぜる配分を間違えたのだろうか「うんうん、スタンダードな奴とチョコの奴はもう大丈夫そうね、後は紅茶入りのとフルーツ入りのかしら」「こっちのは火加減と配分がなかなか難しいですね、最初よりはずいぶんましになりましたけど」クッキーを作るうえで一番大事なのは材料の配分と生地をしっかりと混ぜることだここで間違えると焦げ付いたり形が崩れたりと上手くできないことが多い特に最初に作った時にはその配分をミスしたせいか甘すぎて焦げたクッキーができたほどだ、静希のいう通り最初よりはずいぶんましになったほうなのである「どうする?一度休憩にする?」「そうですね、体中が甘い匂いがしそうです・・・」ずっと菓子作りをしていたせいか静希と陽太の全身からは洋菓子の甘ったるい匂いが染みついてしまっていた、このまま続ける前に少し鼻や口の中をリセットしたほうがいいかもしれない「ふふ、じゃあコーヒーを淹れてくるわ、カウンターで待ってて」カエデの言葉に静希は陽太を引き連れて厨房から店内の方へと戻っていく、相変わらず店の中には誰もいない、休日なのにこれで儲かっているのだろうかと思えてしまうほど閑散としている「はいお待たせ、砂糖とミルクはお好みでね」「ありがとうございます・・・っていうかカエデさん、お客さん全然来ませんけどこの喫茶店って儲かってるんですか?」カエデが出してくれたコーヒーが芳ばしい香りを静希達の鼻に届ける中、失礼とはわかりつつも不安になってそんなことを聞いてしまったもし自分たちが店の営業の邪魔をしているのであれば心苦しい、カエデはそんなこと気にしなくていいようなことを言っていたが、少々不安になってしまう「ふふ、平気よ、これでも平日の夕方あたりは結構にぎわうのよ?学校帰りによる子がいてね、近くに高校と中学があるからその帰りによる子が多いのよ、ほとんど女の子だけどね」女の子がこの店を利用するという事実に静希は驚きを隠せなかった、カエデの話だと結構話が盛り上がるらしいなんでも化粧の話や甘くておいしいお菓子の話、ダイエットの話など結構相談に乗ることが多いらしい最初はそれこそあまり儲けもなく、どちらかというと趣味でやっているような店だったらしいがいつの間にか情報屋と同じくらいの収入が見込めるのだとか確かにカエデは外見こそ衝撃的だがその内面はとても良くできた人物だ、気配りができるし料理もうまい、愛嬌もあるし茶目っ気のある性格をしている、話をしていれば良い人であることがわかるし何より面白い人だというのがわかる面白いもの見たさでやってきた客が常連になることも少なくないんだとか自分の外見とその性格を上手く使って集客しているのだという事に静希は感心していたただその外見である必要はないのではないかと突っ込みたくなったが、そこはあえて黙っておくことにした「それにしても何でこんな立地の悪いところに?もう少し表の方でもよかったんじゃ」「普通の喫茶店ならね、でも別のお仕事もしているとあまり表に近いのはよくないのよ」別のお仕事という言葉で静希は情報屋の仕事もしていることを思い出すこれ程特徴的な店主が営んでいる店だ、商品の質が良いことがわかれば有名になって雑誌などで取り上げられる可能性だってある、そうなってしまうと情報の受け渡しなどというあまり公にしたくない仕事がばれてしまうこともあるかもしれないだが口コミ程度で広がるような店ならまさに知る人ぞ知るという隠れ家的な意味でも商売がやりやすいのだカエデ本人からすると客の顔を覚えやすいからこちらの方がやりやすいのだという客の顔を覚えて一人一人違った対応や適した商品を提供する、平滑化されたチェーン店などにはできないような芸当である、そこのあたりは個人経営の強みというところだろうか「・・・ていうか本当に陽太君一言もしゃべらないわねぇ、結構頑固なのかしら」「俺もこんなに長続きするとは・・・一体何をそんなに隠したいんだか・・・」静希とカエデがしゃべっている間も陽太は頑なに声を出そうとしなかった、声の出し方を忘れているのではないかと思えるほどに黙々とコーヒーの入ったカップを傾けている「ひょっとして実月ちゃんと何か喧嘩したとかそういう話なの?」「いえそんなんじゃないと思いますけど・・・この前偶然遭遇しまして、その時に何かあったのかもですね」偶然を装って遭遇したあの時の話を静希はそこまで深く知らない、実月が鏡花に陽太のことを頼むという事を言ったというくらいしか耳にしていないのだ「昔はそんなことなさそうだったのに、いつの間にかお姉ちゃんが苦手になっちゃったのかしら?」「・・・あぁそう言えばカエデさんは昔陽太にあったことがあるんでしたっけ、まぁ昔と変わらず過剰な愛情向けられると苦手になるってのはなんとなくわかる気がしないでもないですけど」静希も陽太との付き合いはかなり長いが、陽太が実月にべったりだったのは少なくとも小学校の低学年までだ、そこから先はあまり過剰な愛情を向けられるのが嫌になったのか、実月を避けるようになっていたような気がするといっても陽太の実力で実月の追跡を振り払えるはずもなく、十分もすればいつものように実月につかまっていたのだ、懐かしい良い思い出である「せっかくあんなにいいお姉さんがいるんだから思い切り甘えてあげればいいのに、男の子って複雑ねぇ」「そっ・・・そう・・・ですね」もしかして突っ込み待ちなのだろうかと思いながら静希は苦笑いで誤魔化しながらコーヒーを口に含む心は乙女なつもりなのだろうか、確かにカエデは恐ろしいまでに女子力が高い、だがその高い女子力をもってしても隠し切れないほどの男らしさを兼ね備えているのもまた事実だ一体何がこれほどまでにカエデを変えたのか不明だが、ここは流しておくのが吉だろうふと気づくとカエデの視線が陽太に注がれているのに気付くその瞳にはどこか懐かしむような感情が含まれているのに静希は気づけた「ねぇ陽太君、しゃべりたくないならそのままでいいわ、実月ちゃんは嫌い?」その言葉に陽太の眉がわずかに動く静希でもわかっている、陽太は実月のことを苦手に思っているが、決して嫌いではない、自分のことを気遣ってくれて、守ってくれて、心配してくれて、大事にしてくれる、そんな人を嫌いになれるはずがないのだそんなことができる程陽太は薄情ではないそしてそのことをカエデも感じ取ったのだろう、僅かに微笑んで静希と陽太の前に先程作ったクッキーを差し出す「男の子は恥ずかしがってあんまり口に出すってことはしないからね、もしかしたら誤解されてるかもしれないわよ?実月ちゃんは頭はいいけどちょっと抜けてるところがあるし」カエデの言葉通り、実月はどこか抜けているところがある、それが陽太のことになるとなおさらだカエデの言う通りもしかしたら自分は陽太に嫌われているのかもと勘違いを起こしていても不思議はない特にこの前何かあったのだろうか、陽太は妙に頑なに実月に何かを隠しているような節がある「いろいろお話しした時何があったのかとかは知らないし、何があったのなんて聞かないけど、大事なことだけは伝えておいた方がいいわよ?少なくとも自分の口でちゃんと」態度だけじゃわからないことってあるものと付け足してカエデは厨房の方に戻っていく一体何が言いたかったのか、それは陽太が一番分かっているだろう、あの時あの場にいたのは陽太と鏡花だけなのだ、実月とどんな話をしたのか、どんなやり取りがあったのかを知るのは二人だけなのだそして陽太はコーヒーを飲み干すと大きくため息を吐いた「・・・あの人一体どこまで知ってるんだ?」「ようやくしゃべったか・・・まぁ実月さんが知ってることと同じくらいのことは知ってるんじゃないか?」ここに来てからようやく出した第一声がこれとはと静希は少し呆れているが、口に出すだけのことができたのだろうかと思いながら静希はカエデに出されたクッキーを口に放り込む当の陽太は携帯の画面を眺めながら何やら悩んでいる様だった、画面には実月の電話番号が表示されている「・・・なぁ静希、姉貴ってさ、俺のこといつもどんな風に思ってるんだろうな」「お前も知ってる通りだよ、お前のことを溺愛してて大事にしてて、第一に考えてるだろうよ」付き合いが長い静希は、いや付き合いが短い鏡花だってそのくらいわかっているだろうそして陽太が実月に対して伝えなければいけない、伝えるべき言葉があることもまたわかっている様だった、後はそれを口に出せるかどうかだ「まぁあれだ、一度くらい素直になっても損はないと思うぞ、今まで世話になったんだ、鏡花との仲も認めてもらえた今がいい機会なのかもしれないしな」そう言いながら静希はコーヒーを飲み干して席を立つカエデの後を追うように厨房に戻り、その場には陽太だけが残された伝えるべきこと、伝えなければいけないこと、そして陽太が伝えたいこと鏡花と一緒に実月と話した時の表情を、陽太は思い出していた一体どんなことを考えているのかわからないような、何を思っているのか何を感じているのかわからないような表情だったのを覚えている嬉しいのか悲しいのか、笑いたいのか泣きたいのかもわからないような顔をしていたあんな顔を見たのは初めてだった、そしてそれをさせたのが自分達だったというのも分かっている笑った顔はよく見ていた、だが泣いた顔というのは数えるほどしかない、そして嬉しいのに悲しいという表情を見たのはあれが初めてだった静希のいう通り丁度いい機会なのかもしれない、そう思いながら陽太は携帯を使って電話を掛ける「・・・もしもし姉貴?俺・・・陽太」何回目かのコールで出た自分の姉に、自分の言葉を伝えるべく陽太はぽつぽつと頭の中にあることを口にし始めた「あの子も大きくなったのねぇ・・・昔はあんなに小さかったのに」「カエデさんがあったことがあるのって小学校に上がる前ですよね?そりゃ大きくもなりますよ」厨房の壁に寄りかかりながらクッキーをかじる静希と、昔の写真を眺めながらしみじみしているカエデはカウンターで電話をかけている陽太の邪魔をしないように小さな声でそんなことを話していた「ん・・・体格とかそう言うだけの話じゃなくて、なんていうか男の子になったのねって思ったのよ」男の子になったその言葉に静希は首をかしげてしまう、陽太は昔から男だったのだが、一体どういう意味なのだろうかと不思議そうな顔をしていると、そのことに気付いたのかカエデは薄く笑いながら先程静希達が作ったクッキーを口に含む「貴方もいつか分かるようになるわよ、子供だと思っていた子がいつの間にか立派で魅力的な大人になる、本当になんとなくなんだけどね、それがわかるようになるの」なんとなくわかるようになる、カエデにしてはひどく抽象的な表現の仕方だ静希からすればまだよくわからない事柄だが、恐らくこれから大人になっていくうえで少しずつ理解していくことなのだろういつの間にか立派で魅力的な大人になるカエデは先程の陽太の姿をどのように見てそう思ったのだろうか、やはりそこは大人からの視点でなければわからないことなのかもしれない子供の頃の自分のことは思い出せるが、それを第三者視点から見た時、大人から見たときどう映っていたかはわからない、カエデはきっと親にも近い心境でいるのだろう子供を見てきた大人、陽太からすればあまりいい印象はないのかもしれない、彼の親を始め教師も基本は陽太を冷遇していたのだからだが直接ではなく、実月を通じて間接的に陽太のことを知っていたカエデとしては陽太の成長はそれなりに思うところがあったようだ人との関わりとは不思議なものだと、感心してしまう毎日会っている陽太の親はきっとそんなことを言ったことも思ったこともないだろう、なのにほとんど会っていなかったカエデがこんな風な感情を抱くのだから奇妙なものだ以前見た写真から、自分達より一回りか二回り近く年上であることがうかがえるカエデにとって、陽太や実月に対してどのような感情を抱いているのか、本人にしかわからないことではあるが、静希の予想は概ね当たっていると言っていい「カエデさんから見て、あいつはどういう風に変わったと思います?」「ん・・・最近の陽太君のことはあまり知らないけど、そうねぇ・・・気遣いができるようになりかけてるってところかしら」気遣いができるようになると言われないあたりが陽太らしいと評価するべきか、静希はカエデの言葉に苦笑してしまう陽太がデリカシーと言うものを持つのはまだまだ先のようだった「ちなみに後学までに、カエデさんから見て俺はどう見えます?」「あら気になるの?そうね・・・静希君は一見もう大人に見えるけど危なっかしいところがあるわね、そう言う意味ではまだ子供かもしれないわ」危なっかしい、これまた的を射た表現だ静希も自分の危なっかしさは自覚している、他人から見れば明らかに危険な行為を何度も行っているのだ、この評価も甘んじて受けるべきだろうそしてカエデはあえて口にしなかったが、静希を見て思ったことがもう一つあるのだこれは危なっかしいというのとはまた違う意味なのだが、静希は見ていて、とても危ういやんちゃな子供を眺めるような、そんなレベルのものではない、一つ間違えば取り返しのつかないことになるかもしれないような危うさが、静希から感じられたそれは静希が時折纏う狂気によるものか、それともこれまで関わってきた危険が呼び起こした静希自身が持つ特性なのかカエデには判断できなかったが、それは自分が決めることでも、ましてや静希が知るべきことではないと感じ紅茶を口に含んでその考察をごまかすことにした「ところで静希君、バレンタインのお返しだけど、何人に返すのかしら?それによって材料を用意しておくけど」「えっと・・・六個かな・・・?」静希が受け取ったバレンタインは六つ、明利、雪奈、鏡花、石動、東雲姉妹だ今までに比べればだいぶ多い数に、嬉しいながらもお返しのために悩む手間がある、この悩ましさもイベントならではだなと思いながら苦笑する「そのうち本命は?二人だったかしら?」「・・・えぇ、そうですけど・・・」何で知ってるんですかと言いかけて静希は首を横に振る、カエデは実月の師匠だ、そして実月は明利の師匠だ、何らかの形で伝わっていてもおかしくない余計なことを言って藪から蛇を出すよりそのまま流した方が良いだろう「じゃあその二つは特別製にしなきゃいけないわね、愛情を受け取ったならその愛情分しっかり贔屓してあげるのよ?」この露骨な贔屓が何ともカエデらしい、愛情を受け取ったならその愛情分確かに理に適っている、そしてそれは静希だけではなく恐らく相手のことも考えての言葉だったのだろうどんな人間でも、特別扱いされればそれなりに思うところがあるものだ、それが好意から始まるものであれば、ほとんどの人間が嬉しく感じるだろう恋人から特別扱いされる、静希だって嬉しく感じるのだ、明利や雪奈も同じように嬉しく思ってくれるだろうと静希は確信していた「ただいまー、続きはじめようぜ」電話を終えたのか、陽太が再び頭巾をかぶった状態で厨房へとやってくる、その表情が少しだけ複雑そうなのは、恐らく実月といろいろ話したからだろうか気恥ずかしさが混じった微妙な表情だ「おかえり、なんだ無口作戦は終わりか?」「ん・・・もういいや、なんか吹っ切れた」実月と話していろいろ思うところがあったのだろうか、陽太は微妙な面持ちのまま近くにあったクッキーをかじりながら口を尖らせている理解はしたが納得していない、そんな感じだろうか、実月と一体何を話したのか気になるがせっかく口を利くようになったのだ、下手に言及して不貞腐れられても困る、ここは何も言わずに迎えることにした「さぁそれじゃ続きといきましょうか、陽太君はいくつお返し?その中で本命はいくつ?」「あー・・・俺は四つ・・・いや五つで、本命ってか気合入れるのはその・・・二つで」陽太は東雲姉妹からチョコを受け取っていない、その為本来はチョコは四つのはずだ、だが五つ返すというそしてそのうちの二つに気合を入れる、その意味を静希とカエデはなんとなく理解していた陽太にチョコをあげる異性が他にいるとすればそれは実月に他ならないだろう、恋人の鏡花だけではなく苦手としていた姉にも気合を入れるというあたり陽太の心境の変化がうかがえる「そう、それじゃ気合入れて作りましょうか」陽太のこの変化にカエデとしても思う所があったのだろう、微笑みながら手早く材料を取り出して準備を進めていたその後静希と陽太はカエデの指導の元、それぞれホワイトデーに渡すクッキーを作れるだけの技術を身に着けていた前日にまた作りに来るという事を告げ、その場は解散となり、静希達はカエデの店を後にした「ちなみに陽太、実月さんと何話したんだ?」その帰り道、電車に揺られる中静希は何気なくそう聞いていたすでに陽太は普段通りになっていたから、そろそろ聞いてもいいかと思い口に出したのだが、質問された途端に陽太はまた微妙な表情になってしまう「ん・・・まぁいろいろだよ、今までの事とか、これからの事とか」「・・・ふぅん・・・」ニヤニヤしながらそう言う静希に陽太は何だよと眉間にしわを寄せながら返すが、静希からすればよかったなとしか言いようがないその対象が陽太なのか実月なのかは静希自身よくわかっていない陽太が何を言ったのかによってはそれが変わるのだ「実月さん、喜んでたか?」「電話越しだったからわからねえよ、まぁ・・・いやな感じはしなかったな」「そっか」陽太自身、自分で言った言葉の意味を半分も理解していないかもしれないそれでも何かを伝えようとしたことは、実月も理解しているだろう、そして実際にその会話を聞いていない静希でもわかる陽太はしっかり実月に自分の言葉を伝えられたのだ電車の窓から外の景色を眺める陽太の表情を見て、なるほどなと内心頷きながら静希は小さく息をつく子供だったのに、いつの間にかその言葉の意味が少しだけわかった気がする、今までの陽太はこんな表情はしなかった、少しずつ、いい意味で変化しているのだろう鏡花と出会っただけではない、いろいろなことが陽太の中で成長するための肥やしになっているのだ客観的に見れば陽太はまだバカのままだ、そこは何も変わっていないだが知力とはかけ離れた部分が、特に精神的な変化が静希には見て取れた普段陽太の教育を鏡花に任せていたからこそ気づけた変化かもしれない、毎日顔を合わせていても分からないことがある、そしてこうして一緒にいて初めてわかることもある「陽太、お返しどんなのにする?」「言ったらつまんないだろ、それにまだ考えてねえよ・・・まぁ特別な感じにはする予定だ」どんな形でどんな味にするか、陽太はまだ考えていないようだったが、きっとあと数日のうちに答えを出すだろう特別扱いというと少し嫌な言いかたかもしれないが、陽太がようやく自分が特別扱いしたいと思える相手を自覚したのだこの一年、陽太は本当に成長したと思う三月ももうすぐ半ば、あと数週間すれば今年度は終わり、また新しい年度になり、静希達は二年生になる約一年前には想像もできなかったことばかりだが、今の生活は決して悪いものではない静希のことも陽太のことも、明利のことも鏡花のことも、雪奈のことも、そして人外のことも、静希にとってはすでに生活の一部だ著しく変化したことも多い、良いことだけではなく悪いこともあったが、それも含めていい一年だったと思える自分が返す愛情はどんな形にしようかと考えながら、静希は今までの一年を振り返り薄く微笑んだ大量投降中15/20、あと一回五回分投稿します最近忙しいというのにこんなに投稿しちゃって、きっと今自分の首を絞めているんでしょうねこれからもお楽しみいただければ幸いです

「えー・・・明ちゃんの医師免許合格を祈って・・・!」後日、明利の医師免許の取得試験前日、雪奈に引き連れられ静希は近くの神社に合格祈願にやってきていた雪奈は何を思ったのか賽銭箱に千円を投入し祈りに祈りまくっていた神様に祈るよりも明利の頑張りを信じたほうが確実だと思うのだが、身近に神様がいて、その力の強さを知っているが故に神頼りの意味を正しく知ってしまった彼女にとってできることは何でもするという心境なのだろうなんだかんだ静希も千円を投入し明利の試験合格を祈っていた、この姉にしてこの弟ありというべきだろう明利の試験勉強がすでに詰めの段階に入っている今、静希達にできることはせいぜい祈ることだけである「これに受かれば明ちゃんはお医者さんかぁ・・・風邪ひいたときに病院行かなくてもよくなるかな」「普段から病院行ってないだろ、ていうかここ数年雪姉風邪ひいてないじゃんか」完全なる健康児である雪奈はここ数年風邪と言うものを引いていない、明利の定期的な健康診断という名の同調を行っているというのもあるかもしれないが、単に彼女は体が頑丈なのだとはいえ明利が医者になるからといって病院に行かなくてもいいというわけではない、必要な時にはしっかりと設備のある場所に行くべきだし、何より明利は診断や治療はできるかもしれないが薬などを作る技術はないのだ、いやもしかしたらすでに作れるだけの技術を有しているかもしれないが材料も設備もない状態で製薬などできるはずもない風邪や病気を手っ取り早く治すには薬は必須だ、そう言う意味では明利が医者になっても病院に通う必要はあるように思える「あの明ちゃんがお医者さんかぁ・・・ちょっと前は考えられなかったよ」「そうだな、あいつなりに頑張ってたし、たぶん大丈夫だろ」そう言いながら合格祈願のお守りを購入する静希を見て雪奈は苦笑する「ていうか、家に神様いるのにそう言うお守りとか買っても平気なの?違う神様のお守り買うと神様同士が喧嘩するとか聞いたことあるけど?」「へぇそうなのか・・・」今まで聞いたことがなかった話に静希は小さく感心しながらトランプの中にいる我が家の神に伺いを立てる『という事らしいが、実際はどうなんだ?』『別に他の神格のお守りを持っていたからといって喧嘩をするような狭量な神格はいないだろう、特に学業のそれは守り神のそれとはまた別種だ、それにそんな小さなことを気にするような性格ではない』そんなことで争っていては身が持たんよと邪薙は小さくため息をつきながら鼻を鳴らしていたどうやら神格としても別にお守り一つでどうこうするつもりはないようだった神様同士が喧嘩するというと非常に表現が柔らかいが、神格同士が争うという言いかたに変えると急に殺伐としてくる確かに人間の持ち物ひとつ程度で争っていては面倒なことこの上ないだろう、世間一般が抱いている神様と、静希達が知っている神格という存在、随分とイメージが違うなと思ってしまうのは仕方のないことなのだろうか「とりあえず邪薙は問題ないみたいだぞ、明日は明利の護衛についてもらうつもりだし、俺らにできることはこれで全部だな」「そうだね、後は当日電車が止まったりしなければいいけど」静希は万一に備えて明利に邪薙の入ったトランプを預けるつもりだった最初は静希達も一緒に試験場まで行くと言ったのだが、明利に断られてしまったのだ本当ならしっかりと見届けたかったのだが、集中したいという事で断られてしまい、今こうして神頼みに走っているわけであるそして今回能力者用の医師免許の取得試験が行われるのは静希達が住んでいる県の隣の県だった運よく近場での試験だという事もあり前日に泊りがけでの移動ではなく普通にその日の電車に乗れば間に合うもっとも人身事故などがなければの話ではあるが「明利は運があるから、たぶん大丈夫だとは思うけど・・・こればかりはなぁ」「何が起こるかわからないしねぇ・・・まぁ明ちゃんなら迷うこともないだろうけど・・・」明利は能力のこともあってか索敵に回ることが多く、その為地図を読むことに関してはかなり自信を持っていた、迷子になったこともないし道がわからなかったこともない外見が幼いために迷わないか不安になるのも分からなくないが、静希や雪奈が思っている以上に明利はしっかりしている「明日は帰ってきたらしっかりいたわってあげなきゃね、静、しっかり明ちゃんを癒すんだよ?」「わかってるって、今まで頑張ってたもんなぁ」静希と雪奈はちょくちょく明利が医師免許用の勉強をしているのを見てきた、彼女がしてきた努力を知っているからこそ、その思い入れの強さも理解できるし自分も受けているような緊張感がある「・・・どうせだからもっかい祈ってくる、なんか不安になってきた」「・・・俺もやっとこ・・・二回もやっとけば平気だろ」血がつながっていないにもかかわらず、この二人の行動は本当の姉弟ではないかと思えるほど同じだった、その場に明利がいたらきっと苦笑していたことだろう明利の代わりでトランプの中にいる人外たちが呆れ交じりに苦笑していた明利の医師免許取得試験も無事に終了し、やってきたホワイトデー当日、静希と陽太はそれぞれ自分が作ったクッキーを砕けないように袋に入れて学校にやってきていた静希は鏡花と石動、そして東雲姉妹に渡す分を、陽太は鏡花と石動、そして明利と雪奈に渡す分を持ってきたのだ静希はすでに朝ランニングをした後に二人に本命のお返しを渡し終えていた、そのこともあってか今明利はとても機嫌がよさそうである「というわけで鏡花姐さん、お返しのクッキーだ!ありがたく食らうがいい!」「・・・ふぅん、どれどれ」陽太が作ったという事で少々警戒しながら袋を開け、その中を見ると中からは芳ばしい香りが漂ってくる幾つかの種類のクッキーは砕けることなくその形を維持し、視覚的にも鏡花を楽しませている様だった「へぇ・・・案外うまくできてるじゃない」「ふふん、俺だってやろうと思えばこのくらいお茶の子さいさいだっての、見直したか?」得意げに胸を張っている陽太に笑みを返しながらえぇ、見直したわといいながら鏡花はその一つを口に入れるサクッという音と共に噛み砕かれたクッキーは鏡花の口の中に甘さと芳ばしい香りを充満させていく、彼女が口にしたのはチョコの入ったクッキーだった、その為クッキーの中に仄かに混ざるカカオ独特の苦みが広がっていた「うん・・・美味しいわ、こんなのよくできたわね」「まぁな、静希と一緒に作ったんだ、なかなかのできだろ?」そう言うことは言わなくてもいいのよと口にしようと思ったが、陽太が自分のために頑張ってくれたのだ、これ以上何か言う必要はないだろうと受け取ったクッキーを口にしながら鏡花は微笑むクッキーの形は単純な円や四角、ひし形や星型もあれば、花のような形をしているようなものまで様々だった「お、なんだもう渡してたのか」「おはよう鏡花ちゃん、それ陽太君のお返し?」いつものように二人で登校してきた静希と明利に二人はおはようとあいさつした後で陽太の作ってきたクッキーを見せびらかす「ほい、こっちは明利にだ、ありがたく食えよ?」「わぁ、ありがとう、大事に食べるね」「それじゃ俺からは鏡花にだな、味わって食えよ?」「はいはいありがと、にしてもあんたこんなの作れる技術あったのね、料理はともかくお菓子作りができるなんて知らなかったわ」陽太が静希と一緒に作ったという事を言っていたため、静希が陽太に教えたのだと思っているのだろうか、静希は苦笑しながら陽太と視線を合わせる「あー・・・まぁちょっと指南してもらってな」「指南って、誰に?明利とかじゃないでしょ?」さすがに渡す相手に菓子作りを学ぶという考えは鏡花にもなかったのだろう、そして明利以外に自分たちの知り合いの中で菓子作りができるような人間がいないという事も把握済み、そんな中静希達がいったい誰に教わったのか鏡花は疑問に思っている様だったなにせ静希の周りにいる女性は一癖も二癖もあるような人間ばかりだ、雪奈を始めとして明利も自分も城島も少々癖が強い、そんな中で料理、それも菓子作りができるのは明利くらいのものだ、鏡花も少し位はできるが誰かに教えられるほどうまいというわけではない「覚えてるかな、前に世話になったカエデさん、あの人のところで教わってきた」カエデ・・・カエデ・・・と名前を何度か反芻した後で鏡花は思い出した、思い出してしまった、あの強烈な外見をしている喫茶店の店主をそしてクッキーをもう一度口に含み、やはりおいしいことを確認すると複雑そうな表情をした「なるほどね・・・まぁ喫茶店やってるくらいだからそのくらいできてもおかしくないか・・・むしろ良くあの人の所に行く気になったわね・・・」「まぁ、外見は確かに面喰うけど慣れればいい人だぞ?経験も積んでる、常識もあるしな」外見に慣れればいい人、それはおよそ普通の人間に対して向ける評価ではない、というか静希はどうしてこう外見が少し普通とかけ離れた人間と交友が深まっていくのか謎であるそれにあんな外見をしている人間が常識があるというのはいかがだろうか、鏡花としては強烈に否定したい衝動に駆られるが、個人の趣味趣向にとやかく言うのは失礼だと感じ口に出すことはしなかった「そう言えば明利、あんた医師免許試験どうだった?」「うん、監視の人がすごい多かったよ、不正行為をしないようにっていう事と、あと面接も何度かあったんだ、そこでも専門知識の質問だとかされてびっくりしたよ」能力者が試験を受ける際は基本的には不正行為を防止するように監視がつく、もっとも監視したところで完全に防げると言うものではないし、何よりそこまでの手間をかける試験そのものが稀なのだ例えば静希達が学校で受けるような試験では、能力の違いによって配られる答案や解答が違っていたりする、遠視の能力を持つ樹蔵などはその筆頭と言っていい、周りが同じ問題をやっている中一人だけ違う問題をやっていることもあるという普通の試験ならその程度でいいのだが、明利が受験したのは国家資格に関わる試験だ、試験の内容を変えるだけではなく不正行為がないように入念に対策し、同時に人となりを見るために面接も行ったらしい能力者が国家資格を持つというのはそれだけ大変なのだ、特にそれが命に関わることならなおさらである「それじゃ俺は石動にも渡してくるよ、陽太も行くか?」「そうだな、んじゃちょっくらいってくる」午前の授業が終わり、昼休みになったタイミングで静希と陽太は席をはずし隣のクラスへと移動する、隣のクラスは何というか自分のクラスとはまた別の独特の空気がある、そんな中相変わらず特徴的な外見をしている石動を見つけることができた生身の人間の中に仮面をつけた女子がいるというのはやはり目立つ、良くも悪くもエルフというのは人の目につくという事だろう「石動、今いいか?」「ん、おぉ五十嵐に響、どうした?」どうしたなどと口では聞いているものの、その声はわずかにはずんでいる、恐らく多少なりとも期待しているのだろう、その期待にこたえられるかどうか微妙なところだが静希と陽太は持ってきた包みを取り出す「はいよ、バレンタインのお返しだ」「味わって食え」二人から渡された包みに石動は小さくおぉと声を漏らす、どうやら少なからず感動しているようで昼食を食べる前に包みを開けて中を確認していた包みから覗くクッキーを見て再度声を漏らし視線を包みの中から静希達へと移す「これはもしや手作りか?」「まぁ一応な、学校が終わったら風香と優花にも渡しに行く予定だ」「手作りとは・・・まさかお前たちにこんな才能があるとは思わなんだ、ありがたく頂くことにしよう」仮面の上からでも彼女が微笑んでいるのがわかる声で石動は二人に礼を言う、仮面をつけているのに表情がわかるというのもなかなか稀有な存在だなと思いながらとりあえず期待には応えられたようだと静希と陽太は内心ガッツポーズをする「そうだ五十嵐、一ついいか?」「ん?どうした?」自分たちのクラスに帰ろうとした静希を呼び留める石動が一枚の紙を取り出す、そこには何やら店の広告らしきものが載っていた「実は私の知り合いがこの辺りで店を出すらしくてな、ちょっとした占いというか、まぁカップル向けのものなんだが、良かったら幹原と今度行ってみてやってくれ、私の紹介だと言えば安くしてもらえると思う」「へぇ・・・これ何屋だ・・・?占い・・・?いや相談?」そこにはカップルの悩みを解決するだの相手のことをさらに深く知るためにだのいろいろ書いてあるが、何屋であるのかは書いていなかった広告としての意味があるのか定かではないが、そこには店を出す場所の地図が記されている、駅から少し離れた場所だ、立地がいいとは言えないが、悪いというほどの場所でもない「お前の知り合いってことはエルフか?個人で店を出すってのは凄いな」「これが案外好評らしい、時によっては予約が必要なほどになるようだが・・・如何せん私は恋仲になる相手に恵まれなかったのでな、行ったことがないのだ」なるほどそれで俺たちにかと小さくため息をつきながらとりあえずその広告を受け取っておくことにする値段も手ごろだしそこまで遠くもない、今度の休みに行ってみる価値はあるかもしれないなと思いながら静希と陽太は石動に別れを告げ自分たちのクラスに戻っていった「へぇ・・・石動さんの知り合いの店ねぇ・・・これ結局何屋なのよ」自分のクラスに戻り早速先ほど貰った広告を明利と鏡花に見せたところ、興味を持ちながらも鏡花は少々訝しんでいた、何より何屋であるのかが判別できないのだ、カップルを対象にしているという事はそういう類の商品あるいはサービスを提供しているのだろうが、詳細が一切書いていないこれ広告って言えるの?と当然の疑問を抱いている鏡花とは対照的に明利は純粋に興味を抱いている様だった「でも互いのことをもっと深くっていうのは面白そう・・・ねぇ静希君、今度行ってみない?せっかくの紹介だし」「ん、そうだな、明利の試験も終わったし、今度の休みに行ってみるか、お前らはどうする?」「やめとくわ、二人で行ってきなさい、それで好評だったら行ってみるわ」要するに静希達を試金石にして良い店だったら自分たちも行ってみようという魂胆なのだろうが、どちらかというと静希と明利の時間を邪魔しないようにするための心遣いのように思えたせっかく試験という重圧から解放されたのに邪魔ものがいたのでは明利も楽しめないだろう、鏡花なりの気づかいに明利は感謝しながら微笑んでいる「にしても本当に何屋なんだろうな?食い物か、小物か・・・占いっぽいのか?」「エルフの人が出してる店なんだし、なんかの能力が関係してるんじゃないか?少なくとも石動の知り合いなら少しは信用できるだろ」石動の知り合いという事は、かつての石動の先生である山崎の指導を受けた人間である可能性が高いあの人の指導を受けた人間であればそこまで悪さをするという事もないだろうと静希はなんとなく楽観視していた何より人気であるという前評判に多少興味があるのもまた事実であるせっかく紹介されたのだ、ちょっとした怖いもの見たさで行ってみるのもいいだろう広告を見ながら疑問と好奇心が湧き上がってくるのを感じながら静希は弁当を取り出しとりあえず昼食をとることにした放課後、静希は初等部に顔をだし東雲姉妹にバレンタインのお返しをした後家に帰ってきていた、今日は明利も一緒に家に来ており、雪奈が帰ってくるのと同時にダラダラしていた「へぇ、エルフの出す店かぁ・・・気になるね・・・この謎の広告・・・」昼に渡された石動の知り合いのやっている店の広告を見る雪奈は興味深そうに唸っている具体的な商品やサービスの内容も何も書いていないために興味は尽きない、同時に怖くもあるがせっかく紹介してもらったのだから行かないのも気が引けた「今度の休みに行こうと思ってるんですけど、雪奈さんもどうですか?一緒に行きません?」「んぁー・・・いや私は遠慮しておくよ、静と明ちゃんで行っといで」「珍しいな、変な気づかいしてるんじゃないだろうな?」静希と明利、そして雪奈は三人でワンセットのようなものだ、今まで試験で忙しかった明利のために雪奈が気を利かせたのではないかと思ったのだが、雪奈は気まずそうに視線を逸らす「いやその・・・実は三年に上がるときにいろいろやることがあるらしくて今週末は忙しいんだよね・・・なんか集まりとかあるらしくて」「へぇ・・・そんなのあるのか、何やるんだ?」静希の言葉に雪奈はさぁ?と首をかしげる、本人も何をするのかわかっていないようだった、恐らくは今後の就職の話だとか実習の話になるのだろうが、もう少し自分でそういう事を把握しておいた方が良いのではないかと思えてならないどちらにしろ、雪奈が行けないのなら明利と一緒に行くほかないだろうよく考えれば二人とも自分の彼女ですなんて言ったらどんな目をされるかわかったものではない、そう言う意味では丁度良かったのかもしれない、もちろん残念ではあるが「そっか、雪奈さんももうすぐ三年生になるんですね・・・」「そうだよ、最高学年になるのさ、敬いたまえ後輩君」「そう言うセリフはもう少ししっかりしてから言おうな、このままじゃダメな先輩として見られるぞ」静希の容赦のない酷評に雪奈は若干傷つきながらも静希の体にもたれかかりながら不満を体全体で表現していた年上とは思えない態度だが、これも雪奈の魅力の一つだと見逃すことにする「ていうかそれを言うなら静たちだって来年は二年生だよ?ようやく後輩ができるじゃん」「たぶん俺たちは後輩指導には当たらないだろうけどな、うちの班は特殊すぎる」収納系統としては役に立たない静希、索敵に関しては時間がかかるうえに引っ込み思案な明利、周りを巻き込みかねない前衛の陽太、大概何でもこなす鏡花パッと個人の能力を表現した時、明らかに新一年生の教育には向いていないような人間がそろっているのがわかる能力だけではなく性格面でもまず指導という項目には向いていない静希は指揮能力の高さ故に、きっと一年生の行動が効率が悪かったり悪手だった場合は口出ししてしまうかもしれない、鏡花もまた然りだが彼女の場合毒舌が発動した時どうなるかわかったものではない明利は索敵と応急処置という意味では優秀だが、その性格や体から一年生に指導してもいう事を聞いてもらえない可能性もある、陽太はそもそも指導できるような頭脳を持ち合わせていないもし班を二分して後輩の指導に当たった場合、明らかにバランスが悪くなってしまうのだ、それは避けたいところである「まぁ優秀な班が全部後輩の指導をしてるってわけじゃないしね、中には上級生の補助をしてる班もあるし」「たぶん俺らはそっちになるか、完全に関係ないところで活動するかの二択だな、俺としてはどっちでもいいけど」「私はまた雪奈さんと一緒に活動したいな、雪奈さんいると心強いし」嬉しいこと言ってくれるじゃないかと明利を抱きしめながら雪奈が笑う中、静希はもし雪奈たちの班の補助をすることになった場合を想定する班を分割するかはさておき、もし静希達の一班が雪奈たちの班を補助した場合、かなりバランスのいいチームになる雪奈の班には雪奈ともう一人前衛がいる、そうなると陽太を含め合計三人の前衛そして中衛、静希と鏡花を含め熊田と井谷がいるため四人、そして索敵として後衛に明利、さらに索敵もこなせる熊田を入れればば索敵手は二人前衛三、中衛四、後衛一あるいは前衛三、中衛三、後衛二というなかなかバランスのいい配置を作ることができるのだ八人一組の小隊としてはなかなかにいいチームになりそうな気がするしかも雪奈を始め練度の高い能力者がそろっているためにそこらの奇形種程度には負ける気がしない布陣だ、仲間となったらさぞ心強いだろう「まぁ雪姉がいればそれなりに頼りになるだろうな、それに熊田先輩もいるし」「ふふん、お姉ちゃんの頼もしさを理解したかい?たまには頼ってくれていいんだよ?」雪奈の言葉にはいはいといいながら静希はその頭をやさしくなでる、雪奈も頼りになるが熊田もかなり頼りになる先輩だ、索敵も攻撃も補助も工作もこなせるかなり万能な能力者である、防御面に不安があるがそれに目をつぶれば隠密に置いては最高の能力を持っていると言っていい、静希との相性はよく、連携もうまくできる自信があった二年になってからどんな実習が行われるのかまだ全く分からないが、現在より難易度が高いものになるのはまず間違いないだろう、さらに鍛錬が必要になるなと思いながら静希は小さく嘆息するとはいえまだ一か月近くある新学期、そこまで気を張っていても仕方がないなと思いながら静希は石動にもらった広告を眺めながら好奇心を高めていた週末、静希と明利は宣言通り石動に紹介された店へと向かうべく二人で出かけていた現在位置と広告に載っている地図を確認しながら足を運ぶこと数十分、静希と明利はその場所を見つけることができた駅の裏を少し歩いたところ、表通りから少し離れた建物がいくつか並ぶ中の一つ、ビルの中の一つの階層をそのまま自宅兼職場にしているらしいその店を確認して静希と明利は視線を合わせる店の名前はあっている、ビルの側面に着けられている看板が記すものも広告のそれと相違ない、立地がいいとは言えないが、混みもするのだろうか、ちらほらとその建物の中に入っていく人を見ることができた静希と明利がビルのエレベーターに乗り、その店がある階層に向かうとそこにはすでに何人かの客が入っていたといってもその中のほとんどがカップルだったり物見遊山だったりとあまり整合性はない自分たちも似たようなものだなと思いながら静希達も同じように並ぶと、受付らしき人物がこちらに近づいてくる、その人もエルフのようで仮面をつけていた「いらっしゃいませ、お二人ですか?」「はい、えっと石動藍の紹介で来たんですけど」受付の人物はどうやら女性のようだった、名簿のようなものに名前を記す前に静希が用件を告げたためにその動きを止めていた静希は彼女から渡された広告を見せると、受付のエルフはおぉと小さく声を漏らしてから静希達を奥の部屋へと通す、どうやらあらかじめ話が通っていたようだった、事前に準備しておくとは石動が気を回したという事だろうか「エルフの人がやってるって本当だったんだね」「あぁ、受付が仮面着けてるっていちゃもん付けられそうだけど・・・あれでいいのかな」接客において素顔が見えないというのは客に対して失礼ととられてもおかしくないが、そこまで迷惑を起こす客もいないのだろうか、彼らは仮面をつけたまま客と応対している接客業ではないのだろうかと考えながら事務所のような場所で待たされているとやがて扉が開き扉の向こうから仮面をつけた人物が現れる、服装と身長から先程受付で対応した人物とはまた違うエルフのようだった「君たちが藍ちゃんの友人か、えっと確か五十嵐君だったね」聞こえてきたのは男性の声だ、体格は静希より少し小さいくらいだろうか、男性らしい野太い声をしている「えっと、初めまして、五十嵐静希です、こっちは幼馴染で恋人の幹原明利です」「初めまして、幹原明利です」二人の自己紹介にエルフは初めましてと返しながら懐から名刺を取り出す「俺はこの店の店長をやってる、虎杖廉太郎だ、藍ちゃんとは村からの仲になる、ちなみに受付やってたのは家内だ」そう言って名刺を渡しながら握手する虎杖の手に応えながら、静希は首をかしげていた石動の話では占いのようなものに近いようなことを言っていたが、わざわざビルの一階を貸し切るほどの意味があるのだろうかと思えてならない、それこそ部屋の一室だけでも問題ないのではないかと思えてしまう受付から店内の様子をすべて把握できなかったため一体何をしているのかは定かではないが、恐らく何らかの能力を使っているのではないかと思えるのだ「えっと、虎杖さん、ここって何の店なんですか?石動は占いっぽいって言ってましたけど」「はっはっは、説明が足りなかったか・・・占い・・・んん、間違ってはいないんだろうけど微妙に違うというか・・・まぁ見てもらったほうが早いね、こっちにおいで」そう言って虎杖は店の裏側、客のいる場所が見えるような場所に静希達を案内する店内はそれぞれネットカフェのような敷居が用意されており、その中に先程のカップルたちが入っている様だった「・・・ひょっとしてラブホ代わりですか・・・?」「いや、それはお断りしてる、もし発覚した場合は出て行ってもらう約束なんだ、一見すると何しているかわからないだろう?」静希と明利がよくよく客を観察するが、どう見ても個室の中に入った二人が会話したり自分の体を確認してみたり抱き合ったりしている場所を提供するだけならここまで盛況するとは思えないし、何よりいかがわしいことをするためにこんなたくさん人が集まる場所に来るとも思えない「彼らには各個人に許可をとった後で能力をかけてあるんだ、彼らは今その能力の効果を確認しているというわけさ」「能力・・・つまり能力を商売にしているってことですか」静希の言葉にまぁそういう事だねと虎杖は肯定する現代において能力を商売とするのは事実上認められていない、だがそれはあくまで書類上や法律上の話だ、実際それを商売にしている人間は多く存在する能力を間接的に使ったり、ある目的のために能力を使うのはまだ許容されるが、能力そのものを商品として使用するのは禁止されている例えば命を救うという理由と目的の元、その目的を果たすための手段の一つとして能力を使うのは問題なく、相手に能力をかけることで利益を得るのは原則禁止されているのだ無論例外もある、きちんと各省に通達し許可が得られればその禁止を解くこともできる「ちゃんと許可とってますか?」「もちろん、だから能力の使用が認められているのは店内のみ、さらに言えばいかがわしい行為などは禁止ってしてるんだ」能力にもさまざまなものがある、それ故にある種のアトラクション感覚でそれを求める人も多い、だからこそ例外と言うものが存在するのだが、その例外として認められるのはなかなか難しいその条件をクリアしているという事は、彼はかなり優秀な能力者でありながら、同時に経営者としての手腕も持ち合わせているという事になるこれにて大量投降は終了、二周年のお祝いでした二周年とこの物語も地味に長く続いていますが、より一層楽しんでいただけるように努力する次第ですこれからもご愛読いただければ幸いです

「で、今日なんだけどさ、君たちはどうする?藍ちゃんの知り合いなら商売じゃなくても能力かけてあげるけど・・・」「えっと・・・どういう能力なのか教えてもらっていいですか?」静希達は元いた事務所のような場所に戻り今後の話をしようとしていた実際能力をかけられるのはいいのだが、その能力が何なのかによっては遠慮しなければならないかもしれない、少なくとも無防備な状態になることは避けたいのだ「ん・・・あまり種明かしはしたくないんだよなぁ・・・危険なものじゃないのは保証するよ、もし不安なら無理にとは言わないけど」彼は自分の能力を商売にしているのだ、敵意とかそういう意味ではなく自分の手の内を明かすようなことはしたくないのだろう手品師が手品のタネをばらさないのと同じだ、それを体験した人にしかわからない、そう言うものが好まれる一種の驚きや新鮮さといったものを売りにしているのだと感じた静希はどうしたものかと考えた後で石動に一度連絡することにしたこの人が本当に信用に足る人物なのかを確認するためである『ハイもしもし、石動です』「もしもし五十嵐だ、今お前の紹介してもらった店にいるんだけど、この人の能力が安全かちょっと不安でな」静希の言葉に石動は事情を察したのかなるほどなと呟いた後で虎杖に代わるように進言した静希はその言葉の通り虎杖に携帯を渡す「あぁもしもし藍ちゃん?うん・・・あぁ、そうみたいだね、うんわかった・・・なるほど、じゃあちょっと特別扱いしよう、はいはい了解、それじゃ代わるよ」何か話した後で虎杖は再び携帯を静希に返す、すると少し機嫌がよさそうというか楽しそうにしている石動の声が聞こえてくる『五十嵐、その人の能力に関しては私が保証しよう、何かあったら私がいくらでも謝罪する・・・ただ最初はびっくりするとだけ言っておく、特別に今日と明日、その能力を体験できるようにしてもらった』「・・・お前がそう言うなら信用するよ、わざわざありがとな」礼を言ってから通話を切ると静希は虎杖に向き直る「結論は出たみたいだね、それじゃあ明日の夕方まで能力をかけさせてもらうよ、もし日常生活に支障が出る様なら名刺の番号に連絡してくれ、その時は能力を解除するから」「わかりました・・・でも店の外に出るかもしれませんけどいいんですか?」先程も虎杖が言っていたが、能力の使用が認められているのは店内のみという話だった、明日の夕方までここにいるわけにもいかない、もし外に出てしまったら犯罪扱いになってしまう「今回はお代をいただかないってことにすれば、ただ知り合いの友達に能力をかけたってだけの事さ、商売じゃないから何も言われないよ、君たちが俺を訴えない限りね」虎杖の言い分に静希はなるほどと呟きながら自分の隣にいる明利に視線を向ける「明利はどうする?俺はやってみようと思うんだけど」「うん、私も気になってるからやってみたい・・・でも本当にお代は払わなくてもいいんですか?」「構わないよ、次からはちゃんとお客として来てくれれば、あぁ、ポイントカードとか作っておこうか、次から使えるように」個人経営なのにポイントカードまで用意しているのかと静希と明利は感心するが、本当に簡単なカードだ、判子を押してそれが溜まると無料になるとかそういう形のものなるほど、コスト削減の意味でもこれが一番楽だという事だろうか「それじゃちょっと集中するよ、丸一日以上かけるとなると結構重労働だ」「営業の妨げになるようでしたらいつでも解除してくれて構いませんよ?そこまで迷惑かけるわけにはいきませんし」さすがのエルフとはいえ一日以上能力を維持するのはなかなか骨が折れるだろう、だが虎杖はそこまで気にした様子もなく問題ないよと笑って見せるそこはやはりエルフという事だろうか、多少集中を犠牲にすれば問題なく能力を発動できる、しかもその持続時間も距離もまるで問題ないとでもいうかのように「あ、そう言えば君たちが住んでるところってこの近くだよね?」「はい、ここから歩いて・・・早ければ二十分もあれば」ここに来るまでは地図を確認しながらだったために時間がかかったが、ここからまっすぐ帰ればもっと早く帰ることは容易だろう少なくとも行きよりもずっと早く帰れるのは確実である「うん、その程度の距離なら問題ないね、ただ一応あまり遠くには行かないでほしいんだ、能力の限界を超えちゃうと強制的に能力が解除されるから気を付けて、後できるなら二人が近い位置にいることが好ましいね、具体的には距離十メートル以内」「わかりました、気を付けます」いろいろ注意事項があるのだなと静希と明利は軽くストレッチしている虎杖の姿を眺めながら僅かにワクワクしてしまう一体どんな能力をかけられるのだろうか、能力など攻撃などの印象しかないが、一般人にも娯楽として認識されているような能力だ、攻撃性が高いとは思えない「それじゃあ行くよ、目をつぶってリラックスしてくれ」虎杖の言う通り静希と明利は目を瞑り体の力を抜く、すると何かの手、恐らく虎杖のものだろう手が静希と明利の頭に触れる瞬間、虎杖の能力が発動した静希と明利は一瞬意識を失っていた目を開くと先程まで自分たちがいた事務所の天井が見える一体自分はどうなったのだろうかと静希が起き上がると、やたらとその視線がいつもより低いことに気が付いた先程まで自分の腰近くまでしかなかった机が、自分の胸元近くに存在しているこの矛盾に、静希は強い違和感を覚えた「んぁ・・・どうなって・・・ん・・・!?」声を出したことでその違和感がさらに強くなる、声がいつもよりずっと高いのだ、まるで自分の声ではないかのように「ふあぁあ・・・あれ・・・どうなったの?」そしていつも聞いている、いや少しだけ違和感があるが聞きなれた声が耳に届く静希がゆっくり振り返ると、そこには眼をこすりながらこちらを見ている自分の、五十嵐静希の姿がある「あれ?私・・・?え・・・?なんか高い・・・」立ち上がることでその視線の高さに気付いたのか、静希の体はゆっくりとあたりを見渡していた「ひょっとして・・・明利か?」「・・・えっと・・・もしかして、静希君・・・?」互いが互いの名を呼びながら、二人は驚愕に表情を作っていく静希の体には明利が、明利の体には静希が、それぞれ入れ替わっているような形になっている様だった「成功したようだね、それじゃ俺は店があるからこのまま帰ってくれていいよ、今のところ何か問題はあるかい?」唖然としている静希に対して、明利はきょろきょろとあたりを見渡しながら何やら幸せそうにしている静希の体であたりを見ているせいか、いつもより視線が高く、自分の身長が高くなったように錯覚しているのか満面の笑みを浮かべている「あ、あの虎杖さん・・・これはちょ」「問題ないです!ありがとうございました!行こう静希君!」静希の言葉を遮って明利は静希が入っている明利自身の体を担いで店から悠々と去ろうとしている、身体能力では静希の体の方が圧倒的に上なのだ、明利の体に入ってしまっている静希に抵抗できるはずもない「うが!明利離せ!自分で歩くから!」「うふふふふ、背が高いっていいなぁ!すごくいいよ!」どうやら明利はこの状態が酷く気に入ったようだった、普段低い場所からしか見えなかったものが、今高い位置から見ることができているある意味長年の夢といっても過言ではない状態が今明利に起こっているのだとはいえ静希の体でそんな幸せそうな表情をしていると見る人が見れば気持ち悪いと言われそうである「とりあえず家に帰ろう・・・話はそれから・・・」そう言いながら静希は明利の拘束から逃れると、明利の左腕、というか静希の体の左腕が全く動いていないことに気付く静希の体の左腕は義手、ヌァダの片腕だ、普通の動かし方では動かないためか明利は動かせていないようだったもう少し様子を見てからの方がいいなと思い、静希は義手を掴んで明利を引っ張ることにしたこのままだらしない顔の自分を衆目に晒すのは避けたいところである、嬉しい気持ちはわかるがここまで嬉しそうにされると逆にこちらが困るのだ今明利は静希の体にいるのだからもう少し体裁と言うものを考えてほしい静希は急ぎ足で明利を引き連れようとするのだが、如何せん歩幅が小さいせいで急いで歩いて静希の体が普通の歩くペースになってしまう普段は静希が意図的に歩くペースを落としているのだが、ここまで身長差があるとなかなか辛いものだというか明利の視線になってわかるのだが、何もかもを見上げなくてはならないために非常に不便だ、首が痛くなる体も小さく力も弱い、なんと不便な体だろうかと思いながら静希は無意識に左腕で頭を掻いたその瞬間静希は思い出した左腕、そう生身の左腕がある感覚を握った時の手の感覚、体を触った時の手の感覚、今はもう懐かしい生身の腕の感覚今まで意識していなかったためにあまりうまく動かせていなかったが、やはり十数年動かしてきた腕だ、数か月無くなっただけでは動かし方は忘れていないようだった嬉しい反面少しむなしくなりながらも静希は明利の手を引き続ける「静希君、背が高いっていいね」「そうか?ていうか背が低いとすごい不便だな、この体になって理解した」歩くのも走るのも、登るのも降りるのも背が低いと非常に苦労する点が多い普段明利はこんな体で活動しているのかと驚いてしまう恋人たちがより相手のことを深く知るためなるほど、確かに相手の体になってようやく分かることもあるという事だろう、石動の話は嘘ではなかった、そして店の中で客たちが互いの体を確認していたりしていた理由がよくわかった、こんな状態では確認したくなるのが道理と言うものだろうなんとか家にたどり着くと、静希は大きくため息を吐いた家につくと同時に静希のトランプから人外たちが飛び出してくる、状況を把握している様だったが実際どうなっているのかはよく理解していないようだった「えっと・・・今シズキの体を操ってるのがメーリで、メーリの体を操ってるのがシズキってことでいいのよね?」「あぁそうだよ・・・ったくなんて状態だ・・・」明利の顔と声で悪態をついていると、その場にいた人外全員が複雑そうな表情をする「マスター・・・明利様の顔でそのような言葉遣いはさすがに・・・」オルビアの言葉にその場にいた人外全員が何度も頷く、静希は明利の顔で、今まで明利がしたこともないような表情をしていたのだ具体的には目つきが悪く、忌々しげに口角を歪ませ、その眼の奥にはわずかながら苛立ちのようなものが含まれているように見えるこんな状況、断りを入れればすぐに打開できただろう、それでも静希がこの状況に甘んじているのは、今自分の体の中にいるであろう明利がとても幸せそうだからに他ならないあんなにいい笑顔をしているのは実に久しぶりだ、あれが明利の体であればなおさらよかったのだが、自分の体があんなにいい笑顔ができたのだなと思うと少々、いやかなり意外である普段あまり笑顔と言うものを意図的に浮かべない静希にとって、こんなにさわやかな笑顔を見るのは初めてだった幼少時の写真の中にも、ここまでの笑みはなかったように思える人格が変わるだけでここまで表情というのは変わるものなのかと静希は驚いていた「とりあえず明利、ちょっと来い、腕の説明するから」「え?ど、どうしたの?」明利が自分の左腕を動かせていないことに気付いていないのか、リビングに連れていくと静希は即座に明利にその腕の動かし方を伝授したといっても、そう簡単に動かせるようなものではない、静希だってまともに動かせるようになるまでかなり時間がかかったのだ思考で動かすという奇妙奇天烈な動かし方に慣れるのに時間がかかるのは至極当然、そこで静希はまず腕に取り付けられている武装を外すために明利に腕を取り外させた「まずは工具で・・・っと重!工具ってこんなに重かったっけ・・・!?」「いいよ静希君、私持つよ」自分の家にある工具箱を明利に持ってもらい、とりあえず左腕の内部に取り付けられている武装を外すべく工具をいくつか取り出す後々取り外せるような仕掛けがこれらの武装にはしてある、普段静希がメンテナンスをする時もいちいち取り外して行っているためにこの工程も慣れたものである「ぬぐぐぐぐ!か・・・固い・・・!」「あ、私やるよ、これを回せばいいんだよね?」普段なら簡単にできる作業が、筋力のなさという決定的な理由のせいで思うようにいかない、まさか明利の体がここまで貧弱だとは思わなかったのである「まさかここまで不便とはなぁ・・・」「なんか大変そうね・・・そう言えば能力の方はどうなの?」メフィの言葉に静希と明利は顔を見合わせる、互いに自分の顔を見る形になるが、もう違和感もどうでもいいものになりつつあった静希はとりあえずトランプを出してみようと自分の体の周りにトランプを飛翔させようとするが、トランプが現れたのは静希の周りではなく明利の周りだった、要するに『静希の体』の周りにトランプが現れたのだ普段通り自分の体の周りにトランプを出そうとしたのに、明利の体の周りではなく、静希の体の周りにトランプが顕現したことで、静希はなるほどと小さく納得する「えっと・・・これどういう事?」突然自分の周りにトランプが現れたことで戸惑っている明利、それもそのはずだろうなにせ自分は何もしていないのに唐突に能力が発動しているようなものだ「要するに、虎杖さんの能力は体の電気信号だとかを丸々入れ替える能力ってことだな、五感を含め全部の感覚を他者の肉体に転移させる、そうすることでまるで入れ替わってるように見せかけてるだけってことだ」恐らく、能力の部分の根本は本人の体のまま、体を動かす電気的な信号のみが他者の体に転移し動いているのだろう明利の脳が発する右手を動かすという信号は、静希の体に、そして静希の体が見たもの感じたものは明利の脳に転移される、そうすることで入れ替わっているように感じられるだけで実際入れ替わっているわけではないのだだから明利の左腕の感覚が静希の脳に伝わっている、生身の肉体の感覚が久しぶりの感覚に静希は僅かに感慨深くなってしまう、本来もう二度と味わうことができないと思っていた感覚だ、すでにもう諦めてしまっていた感覚だ、だからこそ少しだけこの腕の感覚が愛おしく思えてならなかった「静希君、外せたよ」「あぁありがと、もう腕付けて平気だぞ、片腕じゃバランスとりにくいから気を付けろ」そう言いながら静希は取り外された武装を自分の部屋へと運んでいく同調系統と転移系統の両方の強い能力を有していなければあり得ないことだ、なるほど相手のことを深く知るための、確かにこれは相手のことを知るいい機会にもなるだろう実際に相手の体を使い、相手の体にどんなことが起こっているのかを知ることができる本来男女間ではありえない相互理解、それを深めることのできるいい能力だ、これなら扱いさえ間違わなければいい教育法にもつながる商売として扱っているのが惜しいほどに良い能力であると静希は感心していた『なるほど、とりあえず明日の夕方まではそのままにすることにしたのだな?』静希は明利の体のまま、一応軽く報告するために石動に電話をかけていた最初は男言葉で話す明利の声にひどく驚いた様子だったが、事情を察したのか石動は普段静希に接するのと同じように接してくれた「あぁ、これもいい機会だと思ってな、明利も嬉しそうにしてるし」『そうか、お前の顔で嬉しそうにしているというのが少々想像できんが・・・まぁそれはお互いにといったところか』茶化すなよといいながら静希は微笑む、この表情も明利が普段浮かべない表情だ、嬉しいような困ったような、呆れを含んだような笑みそしてその声も、明利が普段出すことの無い物だ、その体を操る人間が変わるだけで、体と言うものは今までと全く違う動きをする、面白いものだと思いながら静希は石動に礼を言う「ありがとな石動、お前が紹介してくれてよかった、これはいい経験になるよ」『そうか、気に入ってくれたのなら何よりだ、こちらとしても嬉しい限りだよ』石動は満足そうにそう言いながらそれではなと電話を切った、彼女には感謝してもしきれない、今回のことで静希は大事なことを思い出し、大事なことに気付くことができたのだからあの店がなぜ繁盛するのか、わかった気がする、そしてこれは確かに占いにも似ているかもしれないお互いの相性を、実際にお互いの体になって確かめる、だがその実、その結果まではわからない、決めるのは結局自分達何とも投げやりな、助言にしては大雑把すぎるがひどく的確な後押し押された先が安定か破局かはその人によって変わるだろう「静希君、晩御飯どうする?今日は泊まっていくけど・・・」自分の携帯から両親に向けて今日は静希の家に泊まっていくという事を伝えたのだろう、静希が芝居をしなくてもよくなったのはいいのだが、これからどうするのかというのは地味に問題だなにせ明利は静希の体を動かし慣れていない、もっともそれは静希も同じことだが明利のそれはさらにひどいもともと体の大きさが違いすぎるせいか先程から何かとものに当たってしまっている足をぶつけ腰をぶつけ、その度に自分の体が大きくなっていることを再確認して嬉しそうに笑みを浮かべている、幸せそうなのはいいことなのだが正直見ていられない「適当に頼む、たぶん雪姉も一緒に食うことになると思うから・・・オルビア、明利の補助をしてやってくれ、あれじゃ危なっかしすぎる」「かしこまりました、お任せください」体が入れ替わっていてもオルビアの忠義は変わらず静希に注がれ続けていた、彼女にとっては主こそが至上であり、自らが傅く対象なのだからオルビアが明利の補助に回る中、静希の背後にゆっくりと悪魔の影が忍び寄っていた「シーズキ?なんだか妙な感じね、私はシズキの体と魂に契約しているけど、この場合どうなるのかしら」「知るか、そこら辺はお前の裁量次第だろ?体が小さいと身動きとりにくくなるから離れろ」そう言ってメフィを退けるのだが、メフィは何やらきょとんとしている、一体どうしたのだろうかと不思議がっているとその体を僅かに震わせて自分の体を抱きしめている「な、なんかメーリにそんな蔑むような目をされるとゾクゾクしちゃうわ・・・!何なのこの感覚・・・!?」そう言えば普段メフィは明利を抱きしめて愛でていたり困らせたりするのが得意だったなと思い返し、その反応の違いにショックを受けているのだろう、もっともそのショックは悪いものではないようだが確かに明利の体でここまで攻撃的な発言をするというのは印象が違いすぎるかもしれない、台所で笑みを振りまきながら調理をしている明利を見れば一目瞭然だ、静希の体であそこまで笑みを浮かべて料理をするなどと普段なら絶対にありえない、隣で調理の補助をしているオルビアも少し複雑そうな表情を浮かべている「邪薙としてはどうなんだ?俺と明利が入れ替わるとなんか違和感あるか?」「・・・違和感がないと言えば嘘になるが、どちらも守る対象であることに変わりはない、そう言う意味では今までと何も変わらん」邪薙の言葉に静希はそう言うもんかと呟く個人との契約を多くする悪魔と違い、神格は大勢の存在を対象にしている、邪薙は小神であるが故にそこまで多く信仰を得ているというわけではないが、守る対象の人格が入れ替わった程度では動じないのだろうそれにしてもと呟きながら静希は今の自分の体、つまりは明利の体をまじまじと観察する小さい、いろんな意味でそう思ってしまった体の線は細く、手も足も今までの自分のそれと違い短くか細く、筋肉がついているのかも疑わしいほどだ今まで自分と同じか少し小さいくらいだったメフィの体がとてつもなく大きく感じる、自分より大きくたくましい邪薙の体がまるで巨大なモンスターのように見えてしまうこれが小さいという事なのかと実感しながら明利の体の小ささを嘆きながらも、普段の明利の苦労を考えると自然と涙が出てしまった今まで静希はできる限り明利に気を遣っていたつもりだった、実習の時も明利がついてこれる速さで行動したつもりだった、だがこの体になって初めてわかる、今までのあれでも明利は全力を出してようやくついていけるかいけないかという微妙なラインだったという状況だったのだ深く反省しながらそんなことを考えていると家のインターフォンが鳴り響くオルビアが一度明利の補助から離れ対応すると、やはりというか当然というかやってきたのは静希の姉貴分であり恋人の雪奈だったどうやら三年になるにあたっての事前処理のようなものは終わったらしい「いやぁあんまりたいしたことなかったよ・・・やぁ明ちゃん来てたんだね・・・ってあれ?今日は静が晩御飯作ってるの?」リビングでくつろぐ明利の体、そして台所で料理を作る静希の体を見つけ雪奈は少しだけ目を丸くしていた普段明利が家に来る時は大体が明利の手料理だったからである、事情を知らず静希が作っているという風に見えた雪奈には新鮮な光景だった「あ、雪奈さん、いらっしゃい、今お茶淹れますね」「そうだね、よろ・・・っ!?」何気ないやり取りの中で雪奈は強烈な違和感を覚え台所にいる静希の体を二度見する雪奈の顔は驚愕に染まっており、その体はわずかに震えていた「え・・・今なんて・・・?」「え?お茶淹れますねって・・・」「・・・その前・・・私の事なんて呼んだ?」「・・・雪奈さんって」静希の体から放たれる言葉に、雪奈は涙をこぼしていた、体は震えながらゆっくりと台所に歩いていき、その体を掴む「静!何でいつもみたいに雪姉って呼んでくれないの!?お姉ちゃんなんか悪いことした!?しかも何で敬語!?いつもみたいに雪姉って呼んでよ!」雪奈がその体を揺らしたことで静希の体を操っている明利はようやく今の状況を理解する、そう言えば雪奈には入れ替わっていることを伝えていなかったなとはたから見れば静希が突然雪奈にさん付けで敬語を使いだすという奇妙奇天烈な状況だ、今までずっと姉と呼んでもらっていた雪奈からすれば天地がひっくり返るほどの衝撃だっただろう体裁も何もなく雪奈はかなり真剣にそのことについて言及していた、なにせ今まで静希が雪奈のことを姉以外の言葉で呼んだことはなかったのだ雪奈お姉ちゃん、雪姉ちゃん、雪姉、様々あれどそこに姉という言葉がつかないことはなかった、そして静希が雪奈に対して敬語を使ったこともなかったそれは他人から見れば年功序列を無視した失礼に値したかもしれないが、雪奈にとっては自分が静希の家族であるという証のようなものだったなのに、なのに今静希に名前で呼ばれ、なおかつ敬語で話されるという絶望にも近しい状況に自我を保つことさえも怪しくなってしまっていた突き放されたかのような衝撃に足元さえおぼつかなくなってしまっている思い切り肩を揺らされているためにしゃべることもおぼつかない明利に代わり、リビングでくつろいでいた静希が助け舟を出すことにした「雪姉落ち着けっての、それ以上やると気絶するって、力加減を考えろバカ」明利の顔と声で放たれたその言葉に、雪奈は再度硬直する明利は礼儀正しい子だった、今まで、出会ってから今まで雪奈に対して尊敬と信頼を寄せてくれていた、それは彼女の態度と性格から十分に理解していたその明利の口からまさかこんな言葉が飛び出すとは思ってもみなかったのである「め・・・めめめ明ちゃん!?雪姉って呼んでくれたのは嬉しいけどどうしたのその言葉遣い!?まさか遅めの反抗期!?お姉ちゃんもう訳がわからないよ!?」静希だけならまだしも明利にも表れたこの変化に雪奈は軽くめまいさえ起こしていた倒れこみそうになるのを近くにいたオルビアが支えると、うぅと呻きながら顔を蒼くしてしまっているよほど二人の変化がショックだったのだろう別に二人は性格的に変化したわけではなく、ただ単に性格というか人格が入れ替わったような状態になっているだけなのだが「雪奈様、どうかお気を確かに」「うぅ・・・オルビアちゃん・・・私はもうだめだ・・・愛する二人が変わってしまってもうどうしたらいいのかわからないよぅ・・・」さめざめと涙を流す雪奈に、さすがにこのままでは雪奈の人格が崩壊してしまうかもなと思いながら静希は雪奈の顔を掴む「うぇ・・・明ちゃん?」雪奈からすれば明利に突然顔を掴まれたように見えているために、なおさら驚いただろう、普段明利はこんなことをしない、その驚きに混じっていつもの明利とは違う目つきで見つめられることで雪奈の意識は少しだけ正常になりつつあった「雪姉、まだわかんないか?こうしてても分からないか?」「うぇ・・・?」自分の額を雪奈の額にくっつけながら、静希は強い視線で雪奈を見つめる普段明利がするような恥ずかしさも、気弱さも、儚さもそこにはないその眼の奥にあるのはいつも静希がしているような、強く、真っ直ぐで、底のしれない何か人格が変わり、その体を操る人間が変わると、目が示すものまで変わるのか、雪奈はその眼を見て少しずつ正気を取り戻し、同時に気付きかけていた何年も何年も見てきた目だ、物心がつく前から、ずっと見てきた目だ体が変わっていても、雪奈には確信があった、この目は明利にできるものではない、この目は自分が昔から知っている、自分の弟の目だと「・・・もしかして・・・静・・・?」「ようやく分かったか、このバカ姉」「なぁんだそういう事だったのか・・・もうお姉ちゃんびっくりしちゃったよ」静希と明利から改めて事情を聞くと雪奈は心底安心したようにしながらリビングでくつろぎ、静希を抱きかかえている、正確に言えば明利の体の状態の静希をだが「ごめんなさい、説明するのが遅れちゃって」「いいよ明ちゃん、というか静の顔ってそんな表情もできたんだね、ちょっと意外」申し訳なさそうにしている明利を見て雪奈は何度も頷く今まで見てきた中で自分の弟がそんな顔をしているのを見たことがないのか非常に興味深そうだった「んでこっちの明ちゃんの体の中にいるのが静と・・・妙な感じだねぇ」「暑苦しいから離れろ、さすがにもう抱き着かれるのに飽きた」雪奈の拘束から逃れようとするのだが、悲しいかな非力な明利の体では雪奈の拘束から逃れることができない雪奈は静希を抱きしめながら真面目な顔になる「なんかあれだね・・・明ちゃんってそんな顔でそんな声出せたんだね・・・静以上にびっくりだ」普段温厚な明利しか見たことがない雪奈にとって、明利が眉間にしわを寄せながら不機嫌そうな声を出すというのは新鮮、というか初めてだったのだろう、先程以上に興味深そうにしながらその顔をのぞき込むそんな中雪奈は何かを思いついたのか、静希を解放し台所にいる明利の元に向かう「雪奈さん?どうしま・・・ひゃん!」「ここか?ここがいいのか!?」標的が静希から明利に変わり、その体を弄りに行くと、今まで静希の口からは聞いたことのない声が聞こえてくる「ゆ、雪奈さん・・・やめて・・・!」「・・・静ってこんな顔できたのか・・・!やばい別の何かに目覚めそうだ・・・!」静希の体を弄ることで、明利が困惑し普段静希が絶対に浮かべないであろう表情をしていることで雪奈は今まで抱かなかった感情を抱いている様だった鼻息を荒くしながら静希の体を弄る雪奈に、明利の体の中にいる静希はため息しか出ない静希は自分のあんな姿は見たくなかったなと思いながら指を鳴らしてオルビアに指示を飛ばす、何が悲しくて羞恥に満ちた涙目の自分の姿なんて見なければいけないのか「オルビア、雪姉を取り押さえて明利を救出しろ」「かしこまりました」「あぁ!オルビアちゃん離して!もうちょっと!もうちょっとだけだからぁ!」散々その体を弄られたことで明利は顔を上気させ、僅かに息を荒くしている本当に何が悲しくて自分のこんな姿を見なければいけないのかと静希は肩を落とす明利が喜んでくれるのはありがたいのだが、こんな姿を何度も見せられるのなら少々考え物である「ふぅん・・・シズキってこんな顔もできたのね・・・ちょっとだけ・・・」「メフィ、もしこれ以上明利に手を出す様ならちょっとばかしお仕置きが必要になるぞ?」笑みを浮かべながらどす黒い瘴気のようなものを湧き立たせる静希に、その場にいた全員が身の毛を逆立たせた静希はいつも通り笑っているつもりなのだ、普段見慣れた威圧する笑みを浮かべているつもりなのだ、だが今静希は明利の体の中にいるようなもの、明利の顔と声でいつものように威圧すると、いつもより何倍も圧力があるように見える普段怒らない人が怒ると、普通より何倍も怖く見える原理である「静・・・お願いだから明ちゃんの顔でそう言う表情しないでよ・・・本気で怖い」「そうか?自分じゃどんな顔してるかわからないからな・・・」鏡でも持っていればすぐにわかったかもしれないが、静希だっていつも鏡を持っているほど手持ち無沙汰なわけではないのだ、そもそも普通に威圧するつもりだったのだがここまで恐れられるとは、案外明利がキレたら怖いのかもしれない「それにしても・・・こういう場合はどうするべきなんだろうか・・・」「どうするべきって・・・どういうことだよ」「ん・・・いやさ、もしする場合さ、いつもは静が攻めじゃん?この場合どうやってするんだろ」するその言葉に込められている意味を正しく理解したのか、明利は赤面してしまう、反対に静希は呆れてしまう「あのなぁ・・・何でこんな時にしなきゃならないんだよ、俺やだぞ、自分の体とやるなんて」「あー・・・静はそうかも・・・じゃあ私と明ちゃんが・・・ってなった時、どうするべきか・・・」静希は男だ、どんな理由があれ男とするつもりはない、たとえ今自分の体が女の、自分の恋人の明利のものになっていたとしても男とするのは強い拒否反応を示すだろうというか自分の体と情事をするなどはっきり言って吐き気がする、強すぎる嫌悪感に体が拒否反応を起こすのは目に見えているそして雪奈と明利の場合、今は明利が自分の、つまり静希の体をしているわけで、普通に情事には至れるだろうがこの場合問題なのは二人の相性の問題だ普段は静希が間に入ったり一人ひとり対応したりしているのだが、この二人だけとなると話が別であるなにせ二人ともどっちかといえばエムだ、露骨に言えばマゾだ静希が生粋のエスでサドというのもあるのだが、二人は運よく、いや運悪くそう言った性癖に目覚めてしまった、その為二人でからんだときどう対応していいのかわからないのだろう、正直なところ絡む必要性はないのだが「今回はあくまで互いの体のことを知るってのが目的なんだから・・・そこまで気にすることないと思うぞ、そもそも俺はやるつもりがない」「えー・・・つまんないの・・・じゃあせっかくだし他にもギャラリーを呼ぼうか」そう言って雪奈は携帯を取り出し電話を始める、相手が誰なのか、静希はおおよそ予測がついていた誤字報告が25件分溜まったので六回分投稿まぁ二十回分も投稿すればこのくらい溜まりますよ、もう慣れたもんですこれからもお楽しみいただければ幸いです

「――取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」「いや、構わないって……」 リリアが取り乱していたのは、最初からだからと内心考えた隆成だが、自分についていなかったものが突然生えていると考えれば困惑もする

 洗濯機を回し、着替えも終え、勝平への自宅にも連絡した隆成達

 とりあえず今の状態で、そのまま家に帰すわけにもいかなかった

 何せ中身は『リリア』と名乗っており、男性器に驚き、こちらの常識を知らないときた

 隆成達は先ず、勝平の家族への対応から話し合いを始めたいが、情報が必要だと判断した